【記者兼農家のUターンto農】#37 正月食

これも「あるある」? 餅なし元日

手前みそだが、3日付の漫画特集「中信あるある」を楽しんだ。「分かるなあ」と苦笑したり「そうなんだ」と豆知識を得たり。同じ地域でも習慣、感性はいろいろだ。
これはどうだろう?「元日に餅を食べない」。私の実家のことで、雑煮が食卓に出るのは2日の朝だ。驚く方が多いと思う。でもこれ、「あるある」かもしれない。
民俗学に「餅なし正月」という言葉がある。その研究に「長野県史」を用いたのは、神奈川大の安室知(やすむろさとる)教授だ。著書「餅と日本人」(2021年、吉川弘文館)によると、三が日に餅を食べない何らかの風習が、善光寺平、佐久平、そして松本平に集中して伝わっているという。
では、代わりに何を食べるのか。松本平はほとんどがイモだという。ちなみに私の実家は、元旦はとろろご飯と決まっている。ドンピシャじゃないか。
同書は、餅の代用食が佐久平─松本平ラインを境に、北はそば・うどん、南はイモに偏るとも分析している。以北は寒くてイモの保存がきかず、食料源として頼ることができなかったからだという。その解釈の当否はすぐにはつかないが、東北信と中信の風土の違いによることは想像に難くない。
餅なし正月には、食べると病気になる、餅で先祖が苦労したといった理由も伝わっていることが多い。でも、うちの場合、「とろろご飯を食べて『福をかき込む』と聞いてるけど」と母。はっきりしないらしい。
安室さんは、餅を巡る正月食のバリエーションは他家との違いを意識化する仕掛けという見方も示している。よそとは違うことが重要で、由来は後付けということか。儀礼とか伝統なんてそんなものかもしれない。味気ないが、しっくりする感もある。
ご先祖様はどうして元日だけ餅なしにしたのか。正月行事は農耕と結びついていることが多いが、昔はイモ作が大事だったのか。Uターンして初めて迎えた正月、答えの出ない推論も楽しんだ。