【小林千寿・碁縁旅人】#20 冒険の旅②

ルクソールの王家の谷に残る「ヒエログリフ(象形文字)」

数千年の歴史「エジプトで受けたもの」

今回は「エジプトの旅」の続きです。
カイロから古代エジプトの都「テーベ」があったルクソールへ一飛び。機上から見た延々と広がる砂漠にナイル川の蛇行跡の景色だけでも長い歴史を感じ凄(すご)かったです。
ルクソールの町はホテルなどがあるナイル川の東側。日が沈む神聖な場所・神殿、王家の谷があるのが西側。そして西側に行くには渡し舟で川を渡ります。
まだインターネットも携帯電話もない時代に発掘調査をしていた吉村作治先生(当時・早稲田大学助教授)を訪ねるには観光客が乗る渡し舟ではなく「地元の渡し舟に乗り、西側でドライバーのハッサンを探し連れて行ってもらう」。それだけ知らされていました。
その渡し舟に乗ったものの、イスラムの衣装に身を包みラマダン中の地元の人々の中で私はタンクトップにジーンズ姿。9月の猛暑下とはいえ、異様な私のいでたちに皆の視線が釘(くぎ)付けの様子でしたが、私はナイル川の雄大さに圧倒されていました。
舟を降りると、人だかりができ、私が「タクシードライバーのハッサンを知っているか?」と聞くと、次から次へと「オレ、ハッサンの友達」「あいつは悪い友達!」「オレが本当の友達!」と大変な騒ぎに。結局、私はタクシードライバーの「アリ」を信じて彼の車に乗りました。
ところが、「ちょっと家に寄るよ」と言われて村へ。車の外に出て待っていると土塀の家から目が大きな笑顔の子どもたちが出てきて、そのうちに女性たちも。一瞬ドキッと緊張しましたが、みんなが興味津々の様子で私の長い黒髪に触ってニコニコ顔だったので怖くはなかったです。
その後、無事、吉村先生の所に辿(たど)り着き、王家の谷、カルナック神殿を案内していただき、発掘の苦労話も伺え、貴重な時間を過ごさせていただきました。
わずか1週間の「エジプト冒険の旅」でしたが、心は「自分の小さな存在を確認、生と死の距離が近づくような安堵感」を得たのだと思います。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)