【記者兼農家のUターンto農】#39 食の安全保障

大噴火を地球規模で考える

豊作を願う一連の正月行事が終わる頃、トンガで海底火山が大噴火した。
現場は、はるか南太平洋。津波の心配もない者として人ごとのように感じていたが、やがて、気になる情報が伝わってきた。心配の種は海でも地面でもなく、空にあるという。いわく、「大量の火山灰で太陽の光が遮られて不作になる」。
過去の例が説得的だった。1991年にフィリピン・ピナトゥボ山が大噴火、2年後に日本は大冷害に見舞われた。「平成の米騒動」なら私も覚えている。すると、来年あたりから身構えた方がいいのだろうか。
しかし、やがて今度は心配を打ち消すような情報が伝わってきた。いわく、「気温低下をもたらす二酸化硫黄の放出量はピナトゥボ山の噴火時より少ない」。杞憂(きゆう)に終わるなら何よりだ。
ただ、この間に気になるデータを知った。食料自給率だ。米騒動でタイ米を緊急輸入した93年度、過去最低の37%に急落した。翌年に急回復したが、その後じりじり下がり、2018年度と昨年度は再び37%に。いつの間にか、あんなに騒いだ年と同じ水準が常態化している。
30年でいっそう食は多様化し、米離れは進んだ。世はむしろ米余りで、多少の冷害で不足するとは思えない。
米の心配はしなくていいとして、一方で、それだけ主食を輸入に頼るようになったとは考えられないか。すると、別の懸念が頭をもたげる。もし海外から入らなくなったら、買えなくなったら…。
小正月が終わった同じ頃、国会で岸田文雄首相が施政方針演説をした。柱の一つに「経済安全保障」をうたった。コロナ禍でサプライチェーン(供給網)が混乱して半導体不足が起こったことが背景にあるらしい。
食の供給網は大丈夫なんだろうか。折から原油高や円安が進み、小麦製品の値上げが気になる昨今。食料安全保障を「神頼み」にはできない。