[創商見聞] No.69 立石宗一郎 (立石コーポレーション)

「創商見聞 クロスロード」の第69弾は、塩尻市でガソリンスタンドを中心に、コインランドリーやフィットネスジムなどを経営する立石コーポレーションの立石宗一郎社長に、継承から多角化を目指す事業への思いを聞いた。

地域に笑顔を供給し、恩返しを

【たていし・そういちろう】34歳。塩尻市大門幸町生まれ。
University of Victoria Economics(カナダ・ビクトリア大学経済学部)卒。2018年入社、19年10月代表取締役社長就任。

(株)立石コーポレーション

塩尻市大門桔梗ヶ原1079―66  ☎0263-51-1234

-中学から親元を離れ
 中学から北海道の函館ラ・サール学園に進み、高校・大学はカナダで学びました。海外志向が強かったわけではありませんが興味はありました。もちろん、子どもの思い付きでは簡単に行けません。親には本当に感謝しています。
 また家業のガソリンスタンドを何十年もの間、地域、お客さま、従業員が支えてくれたおかげで、教育を受けられ、貴重な経験ができたと思っています。恩返しをしたい思いが強くあります。
-石油需給の最前線で
 大学卒業後は、昭和シェル石油本社に入社し、現場研修などを行う子弟教育制度を利用して3年ほど勉強しました。海外経験もあったので、供給部需給グループに配属されました。グループ内の石油需給バランスの調整を行うとともに、輸出入量を計画し、管理する部署です。
 具体的には、軽油や航空機のジェット燃料などの輸出入を担当し、月間数億円単位の粗利を得る仕事です。海外通信社やIEA(国際エネルギー機関)の英文記事などを参考に、原油価格と需給の動向を考察し、レポートしていました。 ―家業を継ぐ決意
 10年以上の海外生活や日本の石油需給の最前線にいたので、家業である立石コーポレーションへの入社には、相当悩みました。
 直接「継げ」とは言われませんでしたが、日本に戻った時、父は大病を患っていました。子どもの力で海外に行けたわけではないし、シェル本社での仕事に就けたわけでもありません。親には感謝の言葉だけでは足りないものがあります。覚悟を決めて入社しました。
―ヒアリングから
 入社して間もなく、全社員から直接話を聞く機会を設けました。気付いたのは「思っていた以上に現場に熱量があり、素直な社員が多い」こと。これから社の新しい方針を提案していく際にやりやすいだろうと感じました。年商70億円という規模も、すごい会社だと再認識しました。だからこそ、管理体制を改善していきたいと感じました。
 ガソリンはマージンの変動が激しい商売です。利益を安定的に確保するためにはどうするか。近隣店との足の引っ張り合いから、いわゆる「赤字売り」もあった販売環境から脱却したかった。まず、無駄な値下げをしないことから取り組みました。
 シェル時代の経験もあり、原油相場は、ある程度把握できます。週単位で仕切り価格が変動するので、その際、売り方を工夫して少し我慢をし、微々たる額ですが、利益を積み重ねていきました。
 コロナ禍前の2018~19年には過去最高益を計上し、19年10月、社長に就任しました。
―ライフスタイル事業の充実
 現在、先代社長が10年ほど前から温めていたライフスタイル事業への展開を進めています。ユメックスランドリー(コインランドリー)は8店舗になりました。
 コインランドリーのような実店舗を構える拠点ビジネスはとても難しいのですが、先々の需要を見通し、レンタルEV(電気自動車)の配置、充電ステーションの設置などを計画しています。さらに自動車整備工場、飲食店、フィットネスジムなども、ユメックスブランドの下、充実・強化させています。車検整備実績は年間1000台近くになりました。ゆくゆくは車両販売や保険代理店事業も構想しています。
 一方、順調な事業ばかりではありません。20年6月、塩尻市の大門商店街の一角に、コーヒーを1杯100円で提供する「ロースター ザ・ランドリーカフェ」という店をコインランドリーと併設しオープンさせました。祖父が創業した最初のスタンドからも近く、出足は好調でしたが、その後広がったコロナとの相性は最悪で、ランドリーは引き続き営業してますが、残念ながらコーヒー店は休業しました。中信地域に新しいコーヒー文化を提案したかったのですが残念です。
―経営理念を共有して
 シェルの子弟教育制度の締めくくりに、帰郷後、どんな仕事をしたいか役員に発表する機会があります。
 私は「しっかりした社の経営理念を作り、地域に恩返しをしたい」と話しました。社長を継ぎ、以前から考えていた経営理念を「ひとりひとりに笑顔を供給する事で人々の活力を創り出す」と定め、日々向き合っています。
 この理念を社員と共有するためにはどうするか模索していました。また、社長になって、「経営に決まった答えがない」ことも実感していました。
 そんな時に、知人から商工会議所の「次世代経営者育成塾」を紹介されました。探す・教わるというよりは、他の次世代経営者はどんなことを考えているのかを知ることに興味が湧きました。就任当時、自分が周囲からどう見られているか、分かりませんでした。正直親の七光り状態でしたし、いろんな人たちと話す中でもなかな本音を見せてもらえない感覚もありました。
 このまま中途半端にその気になって鼻を高くしてはいけない。塾は、そんな自分を相対的に評価し、自分の立ち位置を確認するのに役立つのではないか。オリエンテーションで、課題や事例の発表を聞き、会社から離れて冷静に考える時間も必要と感じ、入塾しました。
 ―社会的責任を果たす
 現在、約200人の従業員(社員50人、パート・アルバイト150人)がいます。これからも一人一人と話す時間をつくり、経営理念をもっとしっかり伝えていきます。
 会社にとって売り上げが全てではないのですが、追い掛ける目標は必要です。10年後の目標は売上150億円です。企業の社会的責任として、しっかり稼いでしっかり納税をしたい。一緒に地域を盛り上げていく人をもっと増やし、社会に恩返しできる会社になりたいと考えています。
 世界的に脱炭素化が進み、20年後30年後のガソリン業界は激変しているでしょう。会社にとって、従来以上に多様性ある雇用形態が必要です。
 基本路線としては、生活関連分野への事業転換を進め、地域に笑顔を供給し続けられる会社へと成長していきたいです。