活動20年「ボランティア鉋」刃物と会話仲間と磨く

週1回集まって、刃物を研ぐ技術を学び、合間に茶飲み話を楽しむ―。退職した男性たちが始めた会が、松本市の寿地区で20年ほど続いている。いまや、研ぎ直しを請け負うまでになった「ボランティア鉋(かんな)」だ。同地区福祉ひろばで開かれる定例会を訪ねた。

剪定(せんてい)ばさみの刃にやすりを当てながら、広前純一さん(80、寿豊丘)が尋ねた。「会長、力の入れ具合は?」
「ばか力はいらないよ」。答えたのは、鬼頭朝雄さん(83、寿小赤)。指物職人として長年、家具を作り、道具を手入れした。経験を生かし、この会で指南役を務めている。
きっかけは、地域の活動で木工を指導したことだった。仕事ぶりに触れた男性たちが、「教えてほしい」と頼んできた。名のある会社を退いた人たちが多かった。「人生第2の仕事になれば」と、会を作った。
現メンバーは9人。金曜午前に三々五々集まる。会議室に長机を組み合わせた作業台で、仕事が始まる。
鬼頭さんは、研ぎ石など自前の道具を惜しみなく提供する。「職人は自分の技を他人に教えたくないもの。でも、教えないと本当の技が廃れてしまう」。素人ながらメンバーから知見が広がることを期待している。会とは別に、教えた弟子が2人、松本で開業している。
「どう?」「いいんじゃない」「99点」。そんな会話が交わされ、この日の講習は1時間ほどで終わった。「高齢者だから無理はしない。調子に乗るとけがをする」と鬼頭さん。
会では、手を動かすことに劣らず、口を動かすことも大事な活動だ。お茶を飲みながら、話題はうわさ話から世情まで。「刃を研ぎ、世論を研ぐ」と須山輝年さん(80、寿白瀬渕)は笑った。
心身を研さんする会は、昼前にお開き。「今日も一日、頑張ろう」。仲間の肩をたたいていく人がいた。
広前さんは、「同じような年齢で集まって、少しずつ技を覚えて、ざっくばらんに話すのがいい。早く金曜が来ないかなと思う」と楽しんでいる。訓練した研ぎの手腕は、自宅だけでなく、近所でも草刈り鎌などで生かしているという。

好評で依頼続々費用安く抑えて

評判を聞いて、会に包丁やはさみなどを頼む人が増えている。この日は、西川美砂さん(71、平田東1)が刃先の欠けた包丁を持ち込んだ。「43年使って手に慣れている。買い替えは考えられない。こちらがあってよかった」。しばらく預ければ直ると分かり、笑顔を見せた。
費用は「相場の3分の1くらいで、普通の刃物は数百円」と鬼頭さん。木工、障子や網戸の修繕なども請け負う。問い合わせは、寿地区福祉ひろばTEL0263・57・9168