【小林千寿・碁縁旅人】#24 世界の亀裂

ウクライナ問題

2月24日、ロシアのプーチン大統領がテレビ演説で、「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の要請に応じ、特別軍事活動を行うと宣言しました。刻々と伝わってくるウクライナ侵攻のニュースに、世界中に囲碁の友人、弟子がいる私の心は「悲鳴」を上げています。
思い余って首都キエフに住むウクライナ人の弟子に連絡を取り、返事が返ってきた時は、安堵感とともに、より心配が広がりました。
世界を飛び回り日本文化が大好きなクリミア半島生まれの友人が数年前に囲碁講座登録の国籍欄に記入した際の「本当はウクライナなんだけど今はロシア国籍なんだよな~」という憂いを含んだ声の意味が分かりました。改めて世界で起きている多くの問題の深さを学んでいます。
そしてフィンランド人の弟子、アンティ・トルマネン初段(32歳)がプロ棋士になってすぐに自国の徴兵制度に従事しなければならなくなった時のことを思い出しました。
私は在日大使館に、欧米人が囲碁のプロ棋士になるのがいかに大変で、トルマネン氏が世界の囲碁界でいかに大切な存在であるかを説明し、徴兵の免除、または短縮していただけないかと願い出たのです。
因(ちな)みに日本に囲碁留学をした欧米の生徒は20人ほどいます。その中で現在、日本で囲碁の現役プロ棋士として活躍している欧米人は2人だけ(1978年以降、アメリカ2人、オーストリア、ドイツ、ルーマニア、フィンランド各1人がプロ棋士試験に合格)。
その時に対応してくださった大使館の高官は分厚い資料と共に、2時間ほどかけてフィンランドがロシアという大国の隣国として、どれほど大変な歴史を経て独立したか示し、「今でもいつ起こるか分からない有事に備えて徴兵制度があり、何人(なんぴと)でも徴兵義務がある」と丁寧に、厳しく説かれました。
結局、私の弟子は武器を持たない社会奉仕を選択し、フィンランドに戻って高校の先生をしました。
そして今、残念ながら、その時に聞いた話が、ウクライナで現実になっているのです。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)