聞き取り困難でも仕事できる環境を 大町市の北澤昌美さんサロン開業

音は聞こえていて聴力に異常はないが、聞いた言葉を情報として認識しにくい「聴覚情報処理障害(APD)」。口元が見えない電話や雑音のある環境下での会話、または複数人での会話が理解できなかったり、口頭での話の内容を忘れやすかったりする。周囲に症状が理解されにくく、仕事やコミュニケーションに支障を来す。
APDの当事者である北澤昌美さん(24)がこのほど、大町市大町の自宅に「リラクゼーションサロンGypso(ジプソ)」を開業した。
困難はあっても人と接する仕事は諦めたくない。多くの人を癒やし、同じ悩みを持つ人に自分の頑張る姿が励みになり、APDの理解や支援が少しでも広がれば-。そんな思いを胸に一歩を踏み出した。

同じ悩み抱える人の励みに

APD当事者の北澤昌美さんが開いた「リラクゼーションサロンGypso」の店内は、ヒーリング音楽が静かに流れる落ち着いた空間だ。
「音は普通に聞こえているから、見た目には分かりませんよね」と北澤さん。幼い頃から聞き間違えが多く、教師が話す内容を覚えていられず、自分で教科書を読み勉強するのが常だったという。数人の友達と話す場面では、会話が途切れ途切れに聞こえてニュアンスが分からず、推測してとりあえず笑い、うなずいておくことも。それを当たり前のこととして過ごしてきた。
弊害が顕著になったのは、社会に出て接客を伴う仕事に就いてから。客との会話では何度も聞き返せない。後方や横から不意に話されても気づかない。特につらいのが電話対応で、相手の口の動きが見えず、話すタイミングも読めない。返答にもたついて怒られたこともあった。指示はメモに取り、忘れないうちにこなすなど努力をしたが体調を崩して休職。3年で退職した。
当時はAPDの存在を知らず、聞き取れないことのストレスが蓄積。「しっかり仕事ができない自分が許せなかった」。北澤さんはそう振り返る。聴力検査をしたが異常なし。情報を収集するうち、APDの症状の多くが自分に当てはまることに気づき、昨秋に診断された。
APDは研究途上で原因ははっきりせず、現時点では根本的な治療法もないとされる。「治療はできなくても対処法が分かり、楽になった」と北澤さん。ノイズキャンセリング機能付きの補聴器を使うほか、忘れてはいけない耳からの情報は録音したり、日々の予定を家族と共有したり。症状とうまく付き合っていく方向に気持ちが向いた。
人と関わる仕事をしたいが、複数人と一緒に進め、多くの会話を必要とする職種は不向き-と自覚。幼少期に母の体をもんで喜ばれたこともあり、静かな空間で個別対応するサロンを始めた。「合っている環境だと思う」。主治医から掛けられた言葉で自信が持てた。
北澤さんは、サロンの壁にコアラがデザインされた「APDマーク」のポスターを掲げる。外出時のバッグにはこのマークのキーホルダーを付ける。自身の症状を伝え、APDを広く知ってもらいたいとの思いからだ。
APDの特徴や困難を知ってもらえれば、ゆっくり話したり、内容を文字化して伝えたりするなど、周囲の少しの配慮で聞き取りや理解が改善できる。「当事者だからこそ、症状に悩む人がいることを伝え、同じ悩みの人の理解者になれる。過ごしやすい世の中になればいいな」
問い合わせは、できるだけ店のサイトやメールから。