【記者兼農家のUターンto農】#47 雪中の苗

温室育ちのすごい適応力

3月中旬、リーフレタスの畑への定植が始まった。例年通りのスケジュールだ。気温が20度前後になり、初夏さえ思わせる日々だった。
そこへ積雪が来た。18日夜のことだ。Uターンしたばかりの去年は、定植後の積雪とは無縁だった。苗が雪に隠れてしまう光景に、私は覚えがない。苗は、大丈夫なのか。
「平気さね」。親は全く心配していなかった。「強いもんさ」
そう言えば、去年は春先に雪こそ降らなかったが、遅霜に遭った。私は、やはり心配になって親に尋ね、同じように泰然とした答えに驚いたのだった。
確かめてみた。19日朝、畑には雪が5センチほど積もっていた。どけていくと、緑の苗が顔をのぞかせた。付いている雪を払うと、ピョコッと立った。
雪が解けた翌日は、何事もなかったように、畝に苗が並ぶ光景がよみがえった。「強いんだ」。改めて納得し、うれしくなった。
気象庁のウェブサイトに、シーズン最後に1センチ以上の積雪を観測した日が出ていて、松本は平年で3月19日とあった。まさに、この日。リーフにとっては、そして、親にとっても、この時分の雪はいつものことなのだ。
だから、22日朝に再び雪が降り始めても、今度は慌てなかった。畑に行くと、苗の緑はまだ見えていた。しんしんと降る雪を受けながら、すっくと立っている。徐々に雪に埋もれていくのだけれども、「またな」という気持ちで見守った。
ついこの間まで温室で育っていた苗なのに、いったん露地に出ると、すごい適応力を発揮する。
この冬に読んだ、小谷村の雪中キャベツの記事を思い出した。デンプンを糖質に変えながら寒さをしのぐのだという。雪中レタスは聞いたことがないが、同じ葉物野菜の生命力を感じる。
見かけからは思いもよらない力に助けられたり、利用したり。作物を育てる面白さの一つだろう。