塩尻の川上さん 独創的なデザインを生活に

高さ15センチ、1辺6.5センチの四角柱。厚さは1センチで、くちばしのような注ぎ口が付く。シンプルだが、素材やデザインにとことんこだわった酒器「鷺(さぎ)SAGI」。漂ってくる杉のいい香りが、日本酒のおいしさをさらに引き立てる。
この独創的な形を生みだしたのは、川上良一さん(69、塩尻市下西条)。服飾やグラフィックのデザインに長く携わってきたデザイナーだ。「木の塊にできるだけ近い形の片口にしたい」。そんな思いから「鷺SAGI」は生まれた。台形に四角すいをくりぬいたような形のちょこが2つ付いている。
「酒器など人が手に取って使うものにもデザインの経験を生かしたい」との思いから、近年、モダン工芸の分野に力を注ぎ始めた川上さん。その工房に足を運んでみた。

伝統技術に新しい世界観を

「鷺SAGI」の本体は秋田杉や日光杉でできている。注ぎ口に使われているのは、インチアという赤黒く堅い木。とても小さく繊細なため、加工には神経を使う。ちょこの飲み口の厚さは1ミリ以下と、飲みやすく仕上がっている。
川上良一さんが生みだしたデザインを形にしたのは、松本市神林に工房「皆木工作舎」を構える木工家の皆木雅彦さん(61、朝日村古見)。川上さんが、皆木さんの作った作品に引かれ、製作を依頼した。今後、ちょこの1つに漆を塗るなど、バージョンを増やしていく計画という。

100%自分の発想 こだわって活動

川上さんは多摩美術大学でデザインを学び、ファッションの老舗ブランド「ダーバン」に就職。服飾分野からデザイナーとしての道を歩み始めた。その後、セイコーエプソンの前身「信州精器」に転職、機器とグラフィックの両分野でデザインを手掛けるように。エプソン販売ではグラフィックのチーフを務めたこともある。
39歳で独立し、デザイン会社「ZEST」を設立。グラフィック中心に、デザインの仕事を請け負っている。
塩尻市で生まれ育った川上さん。漆器の産地で知られる木曽の近くで育ったため、子どもの頃から漆器や木工に興味や憧れを抱いており、いつかは手掛けたいと思っていた。
グラフィックは楽しい半面、顧客の意向やメッセージを重視する必要があり、自分の思い通りにならないジレンマも抱えていたという川上さん。100%自分の発想による物を作りたい─。その思いが強くなり、12年前に自身のブランド「YOSHIKAZ KAWAKAMI」を設立。モダン工芸デザインの活動を始めた。

木と漆活用して地元産業PRも

木工作家や漆職人などとコラボレーションし、これまでにワインクーラーや弁当箱、酒器、くしなどのデザインを手掛け、形にしてきた。その一つが、漆を使ったぐい飲みの「誘惑」シリーズ。緑と金を組み合わせたり、黒地にピンクのドットをちりばめたりして、「月」「雅(みやび)」「星」「茸(たけ)」など8種をそろえた。直径8センチ、高さ8・5センチで、自立するぎりぎりの形という。
今後、木と漆のアクセサリーにも挑戦する予定。伝統技術に新しい世界観、時代に合った美しさをプラスしていきたいと意欲的だ。デザインを通じて、生活を楽しむヒントを提示するとともに、地元産業のPRなどにも貢献できたらいいと考えている。
「鷺SAGI」は、本体とちょこ2つのセットで3万3000円。諏訪市のSUWAガラスの里のほか、ネットでも販売している。作品などはYOSHIKAZ KAWAKAMIのウェブサイト=こちら=で。