漆塗り筝で和文化発信

和の音色を奏でる箏(こと)が漆をまとい、和文化を融合・発信する─。松川村の箏奏者おとわこころ(白澤美さと)さん(50)は、塩尻市木曽平沢の塗師(ぬし)(漆塗り職人)が漆塗りに仕上げた愛用の筝を、演奏会で使い始めた。
キリの木目が美しい表面(甲)の約半分と、側面(磯)などに朱と黒の「ぼかし塗り」をした。程よいつや、深い色合いとグラデーション。美が際立つ。
漆器産地の職人の技と漆の可能性の再発見にと、塩尻市観光協会が開いた「漆なんでも塗れます!URUSHI夢コンテスト2021」で採用された。おとわこころさんは「和の調べを残し伝える自分の活動だけでなく、和の文化全般のPRに役立てたい」と話す。17日に松本市の四柱神社などで開かれる「松本ジャポニスム」で演奏、筝も展示する。

職人が思い込め完成まで3カ月

おとわこころさんは埼玉県出身。母の安井博親(幸代)さん(73)の下で幼少期から山田流箏曲(そうきょく)の手ほどきを受け、東京芸術大音楽学部邦楽科に進学。卒業後は演奏家として活躍し、移り住んだ松川村の自宅で箏と三味線の教室も開いている。
以前、塩尻市木曽平沢の職人が、米国のハーレーダビッドソン社製大型バイクに漆を塗ったという新聞記事に目が留まった。「何にでも塗れるんだ」と驚いた。昨秋、漆を塗ってもらいたい物を募るコンテストを知り、箏で応募。木のおもちゃや自転車など採用5点の一つに選ばれた。
応募した箏は大学生の時に母親が買ってくれた。演奏会で使う、思い入れのある“相棒”だ。漆塗りを手掛けたのは、職人として約半世紀のキャリアがあるベテラン塗師、小坂進さん(66、木曽平沢)。直接会い、色や塗りのイメージを相談しながら固めた。
木目の凹凸を生かすため、薄く塗っては研ぐ工程を何度も繰り返した。仕上げは松本市内で採取された漆で。「猫足」と呼ばれる部分に螺鈿(らでん)のあしらいを入れた。完成まで約3カ月を費やした。
小坂さんは「今回の経験で違うステージが広がった気がする。箏の演奏を通じて、漆の可能性も発信してもらえたらうれしい」と語る。
松本市城東1の琴光堂和楽器店の渡辺清弘さん(43)によると、演奏者から見て右端側面の「龍舌(りゅうぜつ)」には蒔絵(まきえ)などの装飾をすることがあるが、「甲」と呼ばれる表面に漆で色を付けるのは「かなり珍しいのでは」。渡辺さんは、箏の絃(げん)の張り替えなどを担当。塗り終えた筝を見て「迫力がありますね」と目を見張った。

17日四柱神社で演奏して展示も

響きの変化を心配していたおとわこころさん。演奏してみて「全く問題なかった」とほっとした。日本古来のわび、さび、渋さの中に、奥ゆかしい和の心の美を表現した塗りに「自分の音楽性に合う、思った通りの仕上がり。芸術性を高めてくれる存在で、一生ともに歩んでいく」と話す。
漆塗り箏の初演奏は3月下旬、松本市内であった。小坂さんが見守る中、おとわこころさんは和歌に曲を付けたオリジナル曲などを披露した。
「新たなスタートのような感じ」とおとわこころさん。小坂さんの気持ちも入った箏で、和の音色を大切に紡ぐ決意を胸に刻んだ。
17日の演奏は午後0時10分から、同市大手3の四柱神社神楽殿で。演奏後に箏の展示も行う。
演奏などの問い合わせはおとわこころさんのウェブサイト=こちら=から。