春、山小屋の目覚め 涸沢ヒュッテ

残雪の中で目覚め、半年ぶりに明かりがついた涸沢ヒュッテと、満月に照らされ浮かび上がる穂高連峰=4月16日午後9時1分

残雪少なく異例の雪解け

春山シーズン開幕が間近に迫った北アルプス穂高連峰・涸沢カール。標高2300メートルの涸沢ヒュッテの小屋開け作業は16日、上高地からヘリコプターで入山して始まった。残雪の中で山小屋を目覚めさせる作業や、生活用水を確保する水源の掘り出しに同行。密着取材し、その様子をカメラで追った。
16日午後0時55分。涸沢ヒュッテにヘリコプターで到着すると、本館や新館の赤い屋根の半分近くが見えている。例年は真冬の装いの穂高連峰はすでに春めき、5月中旬並みの雰囲気だ。この時季は雪に埋もれているはずのダケカンバなど木々の露出が目立ち、この春の雪解けは予想外に早い。
「半世紀見てきたが、これほど残雪が少ない春は記憶にない」と山口孝会長(73)は驚く。雪崩が集まるヒュッテ周辺の積雪は、深い所で3~4メートルだ。
午後1時10分。新館内部へは「ユキザサ」と呼ぶ2階客室の小さな窓を掘り出して入る。今春は、その窓が全て露出した状態だ。小型ライトで照らしながら、真っ暗な館内に入る。部屋の壁や天井に霜が付いている場所もあり、厳寒に耐え抜いた様子が伝わる。
午後1時20分。空輸した小型除雪機のエンジンがうなり、本格的に除雪作業が始まった。約900キロある除雪機は一度では運べず、「オーガ」と呼ぶらせん状の回転刃で雪を掻(か)き取る集雪装置部分を取り外して運ぶ。スタッフは、その取り付け作業に大忙しだ。
午後1時35分。次々とスタッフが到着し、初日の重要な作業である玄関と発電室、従業員部屋の掘り出しが集中的に始まった。残雪は硬く締まった状態ではなく、どこまで掘っても軟らかい。厳寒を物語る幾重にも重なった氷と雪の層は、全く見られない。
午後2時35分。除雪機で約2メートル掘り進み、1時間で発電室の入り口を掘り出した。半年ぶりに館内に明かりがともり、「開(明)けましておめでとうございます」。全員が缶ビールで乾杯。
午後3時45分。新館入り口と従業員部屋の入り口を掘り出した。
「小屋開け作業は、例年になく順調に進んだ。営業は、宿泊者数を定員の半分以下の140人にし、新型コロナウイルスの感染拡大防止策をしっかり行い、『ウイズコロナ』で対応していく」と小林剛社長(58)。上高地開山祭が開かれた27日、営業を始めた。

急斜面に立ち“命の水”掘り出す

涸沢カールにある2軒の山小屋、涸沢ヒュッテと涸沢小屋は、北穂沢にある水源を共有している。17日、それぞれ4人のスタッフが出て、掘り出し作業をした。
午前9時半。45度近い雪の急斜面で、安全を確保しながら除雪作業が始まった。約4メートル下にある水源の水槽まで、人力で掘り進む。参加したスタッフは、山岳救助隊員や山岳パトロール隊員。全員が機敏に動き、作業が早い。
午前9時45分。岩壁と雪の間にできた空洞下部に、水槽が現れた。午前10時10分。作業開始から40分で、水槽の位置まで掘り下げた。暗い空洞の奥から、豊かに流れる水音が聞こえる。心配した水量も多く、皆の顔が明るくなった。
午前10時48分。水槽の給水口に2軒の山小屋のパイプを接続し、固定した。小屋開けで、水源確保は最も重要作業の一つ。パイプを何本もつなぎ、約450メートル先にある涸沢ヒュッテの大型水槽に、豊かな量の“命の水”が届いた。
(丸山祥司)