書架サインに作家の似顔絵 松川村図書館職員の細野さん

親しみ湧く絵が読書の入り口に

この本と出合うきっかけは、図書館で目にした作家の似顔絵だった-。
松川村図書館は、著者名を記す書架サイン(案内)に国内の作家222人の似顔絵を取り入れた。「作家の顔から本を選ぶ方法があってもいいのでは」と、棟田聖子館長(60)が発案。パートタイム勤務の同館職員、細野恵美さん(35)が丹念に手描きした。
似顔絵作家、イラストレーターとして「emi」の名で活動する細野さん。透明水彩絵の具などを使い、作家たちの顔をぬくもりある画風で仕上げる。顔の特徴や作風をとらえつつ、人柄や生きざまを約4センチ四方の絵に込めた。カウンター内で絵筆やペンを動かし生まれた似顔絵が「読書への新しい入り口」へと誘ってくれる。

優しいタッチで作家の人柄描く

今月中旬、松川村図書館を訪れた村内の50代女性は、好きな作家の宮部みゆきさんの著書が並ぶ書架で似顔絵を目にして、「似てますね」とにっこり。百田尚樹さん、林真理子さん、万城目学さんらの顔を見つけるたびに「そっくり!」とうれしそう。「顔があると作家の雰囲気や年齢が分かって親しみが湧くし、目に留まりやすい。この図書館の特長になりますね」
同館は以前から、一定数以上の蔵書がある国内作家の著書が並ぶ書架に、振り仮名付きの作家名と略歴、代表作、主な受賞歴を記したサイン(案内)を付けてきた。棟田聖子館長は「名前(筆名)だけでは性別が分かりにくい作家もいる。人としての雰囲気も伝わったらいい」。似顔絵の導入を思いついた。
描き手を任されたのは、似顔絵作家として活動する職員の細野恵美さん。カウンターで通常業務に当たりながら、昨夏から利用者対応の合間などにこつこつと描いている。
作品を読んだことはあっても、会ったことのない作家ばかり。公開されている本人画像を、若い頃のものも含めいくつも眺め、雰囲気や人柄、背景を感じ取る。「私が選んだ、一番好きなその人らしさ」を描き出す。
1人の制作にかける時間は平均15分ほど。最低限の輪郭線で、色を重ねて陰影を出し、優しいタッチの顔が次々と現れる。顔が非公開の作家は、作風や世界観をイメージ画で表現。背景は、同村ゆかりの絵本画家・いわさきちひろが得意とした水彩の「にじみ」の技法で表現している。
「何やっているだい」「ここで描いていたのね」。カウンターで描く姿には、来館者も興味津々。「みんなで図書館の雰囲気を作り上げたい」と、来館者や同僚を誘い、一緒に背景を着色した作品もある。

同村で育った細野さんは信州大を卒業後、母校の松川中学校や村図書館で司書として働き、出産を機に退職。昨年、7年ぶりに村図書館で働き始めた。
幼い頃から好きだった絵は全くの独学だが、「自分を浄化するもので、いろんな人とつながり合える大切な存在」。子育てに専念していた一昨年の夏、慕っていた人の訃報やわが子の成長から、命に対する思いが強まり、生き方を考えた。「自分が好きなことで誰かに生きる力や、大切な人の生きた証しを届けられたら」。似顔絵作家として歩み始めた。
佐野洋子さんの似顔絵は、著作絵本の主人公の猫の体色を洋服の柄にするなど、遊び心を感じるものも。現在も作家の似顔絵制作は進行中で、対象を児童書の著者へと広げる構想もある。「どの表情の作家さんも、いとおしさを感じて描いています」と細野さん。手掛けた作家はこれまでに230人余。「作家の顔は、誰よりも知っていると自信を持って思えます」と笑う。
作家に「会いに行く」感覚で、図書館を訪れるのも楽しそうだ。