現代の名工が忠実に再現 天平の美と技 よみがえる正倉院宝物展

6月12日まで松本市美術館

松本市美術館(中央4)は、開館20周年とリニューアルオープンを記念した特別展「よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―」を開いている。現代の名工が忠実に再現した数百点から、えりすぐりの80点を紹介。伝統工芸と最新の科学技術の融合により、よみがえった1300年前の天平の美が見どころだ。作品の一部を紹介する。
正倉院宝物は、聖武天皇(701~756年)の妻・光明(こうみょう)皇后(701~760年)が、東大寺の大仏に夫の遺愛品などを献納したのが始まり。その後、大仏開眼会(かいげんえ)をはじめ、東大寺の重要な法会に用いられた品々など約9000件の品々を厳重に保管している。
模造製作は明治時代から始まり、1972(昭和47)年以降は宝物を管理する宮内庁正倉院事務所によって行われるようになった。
姿や形を模倣するレプリカとは異なり、当初の宝物と同じ材料、構造、技法で製作するため「再現模造」と表現。そこではCTスキャンなど最新の技術を用いて調査し、その研究結果に基づき材料の調達、人間国宝ら伝統技術保持者の熟練の技で途絶えた技術を再現するなど計り知れない努力の積み重ねがある。

見事な文様・彫刻

特別展は全国8カ所を巡回し松本が最終地。楽器や調度品、染織など盛唐時代の国際色豊かな品々からは、天平文化の華やかさや色彩感が伝わってくる。
華麗な装飾が目を引く「螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)」(展示は5月15日まで)は、実際に演奏できる楽器として再現することを目指し8年がかりで完成させた。それを収める袋に用いられた生地「縹地大唐花文錦(はなだじだいからはなもんにしき)」、ばちの「紅牙撥鏤撥(こうげばちるのばち)」も文様や彫刻が見事。伎楽(ぎがく)面や伎楽人形は、当時のエンターテインメントを垣間見るようで面白い。
鏡を入れていた箱の内敷きに用いられていた絹織物「八稜唐花文赤綾(はちりょうからはなもんあかのあや)」の染料に、日本茜(あかね)が用いられている。復元にあたり国内を探したが見つからず、そのことを耳にした天皇陛下(現上皇さま)が「皇居に自生しているので使って」と分け、3年間ほど栽培して必要量が確保できたという。

ゆかりの作品も

県内ゆかりの作品もある。刀剣作家の宮入法広さん(東御市)が刀身を作り、研磨師の熊井光徹さん(松本市)が研磨した小刀「黄楊木把鞘刀子(つげのつかさやのとうす)」は、紙を切る、木簡の文字を消すといった役割のほか、腰ひもなどに下げて装飾具に。白馬村の松川上流で採石した蛇紋岩を用いた「青斑石鼈合子(せいはんせきのべつごうす)」は、あいきょうのあるフォルムに親しみが湧く。
市美術館の小川稔館長は「『蔵の街・松本』は、先祖が後世に大切なものを守り伝えてきた努力が正倉院宝物とつながる」とし、「再現模造は近代美術史の重要な情報の一部。ものづくりや工芸へのヒントも多い。展示を楽しみながら、伝統工芸の技術者が減っていることも考えてみてほしい」と話す。

リニューアルで快適に

4月で20周年を迎えた松本市美術館。1年かけた大規模改修工事で照明や空調設備を更新し、来館者の快適性を高めた。
企画展示室の照明を発光ダイオード(LED)にし、2階展示室はさらに個別調光機能付きのスポットライトを導入。作品ごとに照度と色味を調節でき、展示の演出効果を上げられる。空調設備は収蔵庫の空調二重化などにより、作品の保存環境を向上させた。
子育て世代も利用しやすいよう、おむつの交換台や授乳室、洗面台を備えた「赤ちゃん休憩室」を新設した。図書スペースはより身近な「アートライブラリー」に。絵本が増え、親子で楽しめる空間になった。
受付は従来の入り口正面から右手に移し、デジタルサイネージ(電子看板)を設置。ミュージアムショップと共にセミセルフレジを導入し、キャッシュレス決済にも対応する。カフェ・レストランはテナントが変わり、「SHOKUDO&CAFE yumyum」がオープンした。

【よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―】6月12日まで。午前9時~午後5時。大人1500円、大学高校生と70歳以上の松本市民1000円。月曜休館(5月2日は開館)。市美術館TEL0263・39・7400