
木曽町福島の安田赳夫さん(95)の趣味は絵手紙。描き始めて30年以上になり、送り合う友人も県内外にいる。30代で男性美容師の先駆けとなり、長く公職を務めるなど、地域のためにも力を尽くしてきた安田さん。今は絵手紙を活力源に、穏やかな日々を送っている。
県内外に送り合う友人も
アトリエにしている縁側で、花瓶に挿したヤマブキの枝を見ながら絵筆を走らせる。「植物そのものの色を表せるよう、太陽の光が当たる場所で描いている。美しい色が出ると楽しい」と目を輝かせる。
24色の絵の具で植物や果物などを描き、好きな言葉や2011年に亡くなった妻・郁子さん(享年80)が残した言葉を添える。そのタッチはとても繊細で、時に立体感を大胆に表現したものも。「誰かに習ったわけではないが、褒められるのがうれしくてね」とほほ笑む。
5年前には、町内の開田高原で地域活性化などに取り組む「開田高原倶楽部」メンバーが、その作品に感動。9点を載せたミニレターの冊子を作って販売した。
安田さんは65歳の時、友人にもらった絵手紙に感動し、「自分も描いてみたい」と始めた。季節の便りを送ったり、近況を伝え合ったりする友人は6人ほどいて、中には30年来続き、今も月1、2回やりとりしている相手も。その人なりの個性があふれた絵手紙に励まされるという。
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安田さんは、郁子さんの実家が代々営んだ「髪結い」業を継ぎ、美容師に。40代以降に民生児童委員を30年以上務めたほか、町社会福祉協議会や木曽踊(おどり)保存会の会長も歴任。脳梗塞を患った郁子さんの介護は17年に及んだが、多忙な日々でも絵筆を握ると夢中になった。
現在は1人暮らしだが、毎日の夕食は近所に住む長男・利夫さん(70)夫婦と囲む。「長年、町の仕事で飛び回っていたので、今は絵手紙を描きながらのんびり過ごしてもらえれば」と利夫さん。
99歳だった兄が今年2月に亡くなり、「励まし合ってきた仲間がいなくなり寂しい」と安田さん。1日の重みを、いっそう感じるようになったという。
花や植物が彩りを増す季節がやってきた。「ものを見て『描いてみよう』と思う希望が生きがい」。安田さんの絵手紙は、自身と周囲を笑顔にさせている。