
深夜仕事でも積極育児 誕生時577グラム成長願い
松本市中央1にあるワインバー「APERO(アペロ)」のオーナーソムリエ小日向健(おびなたけん)さん(42)は、深夜におよぶ仕事をしながらも長男・渉(わたる)ちゃん(1)の育児に積極的に関わっています。これまでの歩みと家族への思いを紹介します。
★ソムリエになる
大町市で生まれ、小学4年生から大学までサッカー一筋だった小日向さん。就職活動で迷い、8歳年上の姉に相談すると「健は何が好きなの?」と聞かれ、「お酒が好き。お酒を取り巻く人々と店にも魅力を感じる」ことに気付きます。姉に紹介された帝国ホテル(東京)に入社、ラウンジバーのバーテンダーとして働きます。
そこでジュニアバーテンダー(日本ホテルメンバーズ協会主催)の資格を取得しますが、1年ほどで退社。都内の高級バーを転々とし、24歳の時に勤めたフレンチレストランで大きな転機を迎えます。それはある先輩ソムリエとの出会いです。
お客への説明の内容や奥深さが自分とは違う先輩の姿に衝撃を受け、ソムリエになろうと決意。勉強を始めます。その後、店の副支配人を任されたものの「よりお客さまに近い接客がしたい」と29歳で退社。下町のワインダイニングで店長をしながら勉強を続け、30歳の時にソムリエ資格を取りました。
★「APERO」開店
「東京でキャリアを積むより、高校(松商学園)時代に慣れ親しんだ松本で店を持ちたい」と2016年にUターン。matsumoto Mt.BARU(マツモトマウントバル、中央1)の店長として働き、18年、店に客として訪れていた麻希子さん(39)と結婚します。
独立を考える中、「生産の歴史が新しいニューワールド(新世界)ワインを出す店は見かけない」ことに目を付け、19年末に退社。年が明けると新型コロナウイルスの感染確認が相次ぎますが「すぐに落ち着くだろう」と思い、当初の予定通り20年4月、念願のワインとおつまみのみせ「APERO」をオープンします。折しも当日は東京都などで初めて新型コロナの緊急事態宣言が発令。店も影響はありましたが「お客さんに助けていただいた」と言います。
★577グラムで誕生
夫婦で店を切り盛りする中、麻希子さんの妊娠が分かります。安定期に入って間もなく妊娠中毒症になり昨年2月に入院。その翌日、予定日より100日早い577グラムの超低出生体重児として渉ちゃんが誕生します。
肺が未熟な状態で生まれたため、継続保育治療室(GCU)で過ごすことになった渉ちゃん。夫妻は「信頼できる医師と看護師が付いているから大丈夫」と励まし合いながら、週3回、わずか20分間の面会時間を心待ちに過ごします。
「会えない間も、渉の生命力の強さに励まされ、仕事の活力にもつながりました」。呼吸を助ける酸素吸入器を鼻に装着し、8月にようやく退院します。
「食が細くミルクをあげるのも大変。妻は、眠りの浅い息子の世話で本当に苦労している」。ちょうどその頃、店は松本市の「時短要請」で休業することに。「家に居て育児を手伝ってみたら、1日中子どもと過ごす大変さが身に染みた。一番大変な時期に子育てに携わるきっかけができたことは、今となればありがたかった」と振り返ります。
★夢
新型コロナの影響や物価高騰など取り巻く環境は厳しいですが、「世の中の人に酒場の楽しさを感じてほしい。そのためにも店を維持したい」と健さん。「これからも家族に不自由な思いをさせないようにし、息子が大人になったら、僕が作ったお酒で飲み交わすのが夢です」