誰にも心地よい場所とは-「東家」オーナー・江刺さん

「ゲストハウス」やめ在り方模索

「ここがどんな場所かは、人によって変わるし、はっきりさせなくていい。『曖昧な場所』を意識している」。松本市大手4の、3月までゲストハウスだった「東家」オーナーの江刺里花さん(27)は、この家の今後の在り方を模索している最中だ。誰にも心地よく、心に余裕が持てる場所とは?

ギャラリーのように活用も

東家では29日まで、市内各所で工芸品などを展示販売する「工芸の五月」のイベントの一つ「子ども椅子とちいさいいきもの展」が開かれている。1階和室の供用スペースに、木工家が作った子ども用の椅子と、それに座る作家の縫いぐるみを展示。鑑賞する人たちが出入りしている。
「こうしてギャラリーのようにするのも、この家の活用法の一つかも。新たな試みをしながら、常に間口は広くしておきたい」と江刺さん。
2014年にオープンしたゲストハウスは、インバウンド(訪日外国人客)需要に加えて「ゲストハウスというだけでお客が入った」(江刺さん)が、コロナ禍で大きな打撃を受けた。
今年4月、江刺さんは「ゲストハウス」の看板をいったん下ろすことを決意。宿泊はリピーターや紹介を受けた客に限り、代わりに「もっとオープンな場所」を目指して、余った時間とスペースを活用しようと探り始めた。「子ども椅子―展」は具体策の一つだ。

「リケジョ」から宿の主人に

江刺さんは栃木県出身。信州大理学部(松本市)で有機化学など学ぶ「リケジョ」(理系女子)だった。2年生になった頃、狭い教室に閉じこもり、大学院を経て研究機関や企業に就職するという、皆がほぼ同じ方向を向いている学生たちの中に、自分がいることに違和感を覚えた。「自分の考えや生き方は『違う』と言えず、それがストレスだった」と振り返る。
そんな状況から救ってくれたのが、オープンして間もなかったゲストハスの東家と、そこに出入りする人たちだった。「人はみんな違う。(東家に集う人たちは)その違いを認め合っていた。心が豊かになった」。運営に携わるようになり、大学を中退した17年、オーナーを引き受けた。

「オープンで曖昧」目指して

思い入れがある東家を存続させながら、「オープンで曖昧な場所にする」という新たな目標をどう実現するか。「緊張感にあふれた世の中で、人の心に隙間がつくれないか」。江刺さんの頭にはおぼろげながらも、そんな場所になった東家の姿が浮かんでいる。