創業1000日 今の思いは

MGプレスが創刊から発行を重ねてきた「1000」という数字。日数にすると、他の事業にとっては、どんな期間になるのだろう。始めておよそ1000日になる店と工房を訪ね、創業者に話を聞いた。

ごはんカフェ笑 ~emu~(松本市岡田松岡) 佐藤孝子さん
「人のために料理を」コロナ下は弁当に力

野菜をたっぷり使った家庭的なおかず10種類にごはんが付く「笑(えむ)ご膳」が売りのカフェ。店主の佐藤孝子さん(55)は、2019年11月の開店から今日までを「あっという間。でも経験できたことは、10年間を凝縮した感じ」と振り返る。
もともと料理をするのが好きだった。市内のパン店「スヰ(イ)ト」で9年間働き、カフェのメニュー考案や、マネジメントにも携わった。
夫の病死をきっかけに「自分のやりたい仕事をやろう」と18年に起業を決意。松本商工会議所が開く「松本地域創業スクール」を受講するなど、準備を進めた。
開店してしばらくは、お客が並んで待つほど忙しい毎日だったが、半年もたたないうちに新型コロナウイルスの感染拡大が襲い、客数が1日10人を下回る日も。
店の当初のコンセプトは「忙しい主婦が友人らと食事とお茶をし、ゆっくり過ごす場所」だったが、コロナ禍で事態は一変。一時は店内での飲食の提供をやめ、弁当のテイクアウトに切り替えた。お客から激励の手紙をもらい、涙したこともあったという。
“ヘビーユーザー”もいる弁当の販売は、店内営業の再開後も続けている。お客の数は、コロナ感染者数と反比例を繰り返すが、弁当により「自分の料理を食べてくれる人が増えた」と実感。2年半余の間に常連客もでき、グループ客も戻りつつある。
「2日間働かないと具合が悪くなる。人のために料理を作るのが大好き」と、笑顔で厨房(ちゅうぼう)に立ち続ける。
営業は午前11時半~午後7時(金、土、日曜は9時)。木曜休み。TEL0263・87・3119

西野うるし工房(塩尻市木曽平沢) 西野孝章さん
塗りの技に磨きかけ 独自の技法で作品も

漆器の最後を仕上げる上塗り師、西野孝章(たかのり)さん(52)が、自身の工房の看板を正式に掲げたのは2019年9月。注文仕事をこなしながら、独自の作品を作り続けている。
岐阜県白川町で生まれ、漆器を作りたくて木曽に来た。20代半ばに木曽平沢の「漆工(しっこう)町」にある伊藤寛司商店で働き始めた。
上塗りの出来は、1回のはけさばきで決まる。やり直しのきかない仕事を一人前にできるようになるには、最低10年かかる。西野さんも10年余りで「全国伝統的工芸品公募展」で入選、20年ほどで伝統工芸士に認定された。
均一な塗りの技に磨きをかける一方で、「上塗りだけで模様をつけたい」と斬新な技法も編み出した。色が混じり合う「繧繝(うんげん)塗り」。「ぼかす」という意味で名付けた。一つとして同じ柄にならない。
朱の地に黒が混じるパターンだけでなく、黒地に緑がにじむ組み合わせも。塗ったわんが、東京五輪・パラリンピックの大会関係者に贈られる記念品に選ばれた。
独立には、後継者不足の業界事情が働いた。「やめるなら引き継ぐで」。知り合いに冗談交じりで言ったのが、現実になった。主に箸を作る「エトリ漆器店」が仕事場になった。
だが、間もなくコロナ禍に。土産物が多い箸の扱いはがた落ち。数少ない上塗り師として、請け負う仕事が経営を支えた。「うんと大変だけど、新しいものを考えて出していきたい」。白地にピンクといった彩り鮮やかな繧繝(うんげん)塗りの箸は、若者が手に取ってくれたらと今年作った。
3年ぶりの木曽漆器祭(3~5日)が開催中。「お客の反応がじかに見られる」。そんな機会が増えるのを願っている。TEL0264・34・2575