
医療的ケア児や病児、障がい児の母親の心を元気にする場所をつくりたい。中谷(なかや)さやかさん(43、安曇野市穗高)はそんな思いでピアサポート活動を行う。母親が共に支え合うため、対面やオンラインのおしゃべり会、動画のライブ発信などをする。
重度先天性心疾患の長男、悠生ちゃん(3)を育てる中で、預ける人がいない、子どもの命の重さを母親が担うといった状況に、孤立感や心の疲れを感じる。行政のサポート情報が入りにくく、サービスの利用申請も大変だ。
自分の考えや悩みを話せる場所があれば、心が健康になるのではないか。地域の人や看護学生に医療的ケア児を知ってもらえば、支える人材育成につながるのでは─。「かわいそうと思われるのは嫌」。子育ての現場を見てほしいと思う。
地域で守られている安心感を
中谷悠生ちゃんは、生まれながらに大動脈、肺動脈が両方とも右室からつながる両大血管右室起始症など、重度の心疾患を抱える。自宅には、酸素ボンベや吸引器など、体調が悪くなったときのための機械が置かれる。
中谷さやかさんは妊娠15週で、おなかの悠生ちゃんの心拍数が下がり、心臓の病気と生まれる可能性の低さを指摘された。誕生後も11カ月入院。「退院したら外の空気を吸わせたい」と思ったという。
おむつにほ乳瓶、ミルク、ちょっとしたおやつ─など、乳幼児と出かけるのは大変だ。そこに人工呼吸器など命をつなぐ重要な機械や薬が加われば、大変さは計り知れない。「散歩に出かけるだけでも必死。機器の重さはもちろん、子どもを1人にすることが不安でトイレにも行けない」と切実だ。
隣家に住む母親に預けられないかと思っても、何かあったらと考えると難しい。医療的ケア児らの世話は、基本的に親、特に母1人で抱えることが多く、「外出時トイレに行く間だけ、ちょっと見ていてもらうだけでもありがたいのに」と思い続けていた。
悩みを共有し情報も豊かに
「安曇野市に医療的ケア児、病児、障がい児はどのくらいいるのだろう」。そんな疑問が生まれた。先天性疾患、超低体重出生児、発達障害といった子どもの家族を訪ねては、聞き取り調査をした。
調査で見えてきたのは、医療保険を利用し短期入院するレスパイト施設の充実、平等の支援、サービスが受けられるようにするコーディネーター的存在の充実─といった数々の物理的・制度的な課題だ。さらに、子どもの病気と向き合う中で起こる困難や葛藤を1人で抱えがちになる、家族や地域から病気や障がいへの理解が得られない─といった親の悩みもつかめた。
中谷さんは心理カウンセラーの資格を持つ。物理的な課題解決が難しくても、専門機関と連携し精神的な部分の支援活動をしたいと2月、母親のためのピアサポートを始めた。ピアは仲間の意味で、対等な立場での支援を言う。
「SNS(交流サイト)で同じ病気の子どもの母親同士がつながり情報交換しているが、地元のつながりはなく、地域の情報が入らない。地域で『守られている』という安心感を得られるようにしたい」
日頃の悩みや苦労をシェアする場に─とオンラインや対面でのおしゃべり会を開く。医療的ケア児について知ってもらうため、自身の子育ての現場を見てもらうことも考えている。中谷さんは「ママへの支援が大切。母親が安定すればきょうだいへの接し方、影響も形が変わってくる。当事者の母同士がつながれば、情報も豊かになる」と、ピアサポートの重要性を訴えている。
【医療的ケア児の母親らがつながる場を】
▽オンラインおしゃべり会13、24、29日の午後2時~3時20分。参加無料。
▽対面おしゃべり会23日午前10時~正午、26日午後1~3時、いずれも安曇野市豊科のマザーハウスで。定員7人。参加費300円。安曇野市在住者限定。
オンライン、対面とも予約が必要。詳細、申し込みはインスタグラム=こちら=から。中谷さんへの問い合わせはインスタグラムのダイレクトメールで。