【上高地の春の妖精・後編】変異多い不思議 白・ピンクのニリンソウ 心癒やす“天使の花”

上高地の本格的な春は、林床を白く彩るニリンソウの花便りから始まる。妖精に例えたい清楚(せいそ)な表情が際立つ一方、形や色に変異が多い不思議な花に魅了され、フィルムカメラの時代から撮影を続けてきた。前編の「ミドリニリンソウ」(6月2日付に続き、後編は「白・ピンクのニリンソウ」を紹介する(年の記載がない写真は今年の撮影)。

色も形も多様山旅の魅力プラス

【大群落はどこに?】上高地のニリンソウの大群落は、河童橋から梓川左岸を上流へと向かった明神、古池付近、徳沢の3カ所にある。井上靖の小説「氷壁」の舞台として知られる徳沢は、明治中期から昭和初期にかけて「上高地牧場」だった所。ハルニレの巨木が点在し、牧歌的な雰囲気が漂う牧場跡は、上高地で最大級の群生地だ。
【花びら(萼片(がくへん))の数と形の違い】白い花柄のカーペットを敷き詰めたような群落の前に立ち、1輪ずつ見つめながら目線を移すと、花びら(花弁)のように見える「萼片」の数の違いに気づく。デジタルカメラで撮影した24年間のデータを基に、その数を考察した。
最も多いのは5~7枚。8~9枚は見つかるが、数は少ない。10~11枚の個体は極端に少なく、見つかることはまれ。12枚以上となると、発見は数年に1輪の確率だ。これまでの最多は、2010年5月に古池付近の群落で見つけた14枚。一見「違う花では?」と疑ったが、葉を確認するとニリンソウだった。08年6月には明神の群落で、奇妙な格好で咲く12枚の個体が目に留まった。分化が不完全で2輪の花になれず、重なったまま咲いた奇形の花だった。
ニリンソウの花を観察すると、萼片の輪郭の形状が、大きく分けて2種類あるのが分かる。丸みがあり幅広い「丸弁」と、剣のように細く尖った「剣弁」。少し視点を変えると、出合いはより深いものになる。

【優しいピンクのニリンソウ】ピンクを帯びた花は、まれに1、2輪見かけるが、昨年5月に徳沢で、それまで見たことがない驚きの群落を目にした。萼片の表や裏がピンクに染まったかれんな花々に一瞬、目を疑う。草丈や花は、普通より少し小ぶりだ。望遠レンズで迫ると、ファインダーいっぱいに優しさがあふれた。
近年、ミドリニリンソウの花は「見つけた人は幸せになる」と言われている。ならばピンクのニリンソウは?見つめていると癒やされ、出合った人に幸せを届ける“天使の花”に思えてきた。
白、緑、ピンクと、3色のニリンソウが咲く春の上高地。自然がつくり出す色や形に目を凝らすと、山旅の魅力はいっそう増す。

(丸山祥司)