【小林千寿・碁縁旅人】#29 英国の囲碁界と英語

タラとポテトをカリッと揚げたフィッシュ&チップス

第1次世界大戦の頃にチェスのマスターの称号を持つエドワード・ラスカー氏が囲碁に興味を持ち来日。彼はその後、1935年にアメリカで英語の囲碁の本を出版しました。そのおかげで英国に囲碁が早めに伝わり、今日に至るまでケンブリッジ、オックスフォード大学の理数系の学生の間で盛んです。
私は74年にロンドンで英国チャンピオンのケンブリッジ大卒のジョン・ダイヤモンド5段と公開対局をしました。まだ欧州と日本は遠く、ましてや、囲碁のアマチュアとプロ棋士が打つ機会などなく、緊張した雰囲気でした。
翌年、日本棋院理事長などを歴任した故・岩本薫九段の尽力で欧米で初めての囲碁センターがロンドンにオープン。その翌年76年の夏に私は、英語研修のため1カ月間ロンドンに滞在することにしました。
最初に囲碁センターを訪ね、どこの英語学校が良いかと尋ねると、「英語学校には多国籍の生徒がいて本当の英語は学べないよ!僕たちと過ごせばレベルの高い英語が身に付くよ!」と言われ、すぐに納得。「オックスブリッジの英語」を無料で学べる環境でした。
21歳の頃です。毎日、碁を教え、食事、音楽を聴きに行き、プレーヤーの家に招かれているうちに彼らの早口の英語に徐々に慣れ、タイミング良く相槌(あいづち)を打つことから、英国的ユーモアのコツもつかみ始め、本当に楽しい日々でした。
ところが、いざ、外食となると、安く美味(おい)しいのは中華、インド料理ばかり。日本料理店は高く、英国料理と言えば「フィッシュ&チップス」と伝統的な「ティータイム」くらい。
その後、英国には何度も行きましたが、庶民の食事情の大きな変化は感じませんでした。
そして今、英国の国民食が危機を迎えています。フィッシュ(タラ)はロシア海域で40%、それを揚げるヒマワリ油の半分はウクライナからの輸入のために値段が高騰し、安価に提供できなくなってきているそうです。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)