【記者兼農家のUターンto農】#60 参院選

ばらまき策?見え方変わる

肥料が高くなっている。例えば、JA全農は6~10月の複合肥料を1・5倍にした。そんな状況を受け、岸田文雄首相が支援金制度を設けると表明した。6月21日、参院選の公示前日のことだ。
選挙対策のばらまきだろうか。Uターン前の私なら、そう受け取ったかもしれない。
今の物価高で、農産物の出荷値はどうか。タマネギは高値が話題になったけれど、全体としてはそんなに上がっていないと思う。うちで作るリーフレタスは、昨年の今頃と同じくらいだ。
需要と供給の量で決まるのが農産物の相場だ。肥料のほか、燃料など資材のコストも高いが、関係ない。
「1次産業の宿命だよ」と苦笑いした酪農家を思い出した。松本市波田の三村誠一さん。取材した1月、すでに飼料の高騰に悩んでいた。
半年ぶりに話を聞いた。飼料はさらに上がったが、牛乳の出荷値はというと、乳業メーカーは「小売値が上がれば、買い控えが起こる。それでもいいか」という立場という。
この春に南信酪農業協同組合(松本市)の組合長に就いた三村さんの元には、仲間からの声が届く。「もっと強く価格交渉してくれって。私に言ってもしょうがないけど、誰かに言いたいんだね」
一番は誰に聞いてもらいたいのだろう?三村さんは「消費者に本当の値段を理解してほしい」と言った。餌代、電気代…。店頭では見えてこないお金。その価値を知ってほしいという。
同じ思いは、同市梓川地区のリンゴ農家、佐原茂さんからも聞いた。「どうやってリンゴが作られるか、知らない方が多い」
私もだと思った。少なくともUターン前は何も知らなかった。
困っている人たちにお金を配る。理由が分かれば一概に「ばらまき」とも思えない。肝心なのは、それぞれの状況が見えることだ。
見えてくれば、できることもある。高くても買う消費者になるのも一つ。値決めや流通のそもそもを考えたくもなる。
主張が飛び交う選挙は、背景を知り合う機会にもなる。