孤立防止や見守りの一助に―松川の元商店が憩いの場

松川村で60年近く営業し、生活雑貨や菓子などを扱った「田中商店」が閉店後、地域住民が週1回集う憩いの場「ほっとサロン田中」に生まれ変わり、丸2年がたった。近所のお年寄りらが足を運び、お茶を飲みながらたわいない話に花を咲かせる。地域の「茶の間」は、お年寄りの孤立防止や見守りにもつながっている。
「いらっしゃい!久しぶりだね。忙しかった?」。営業当時のままのガラス引き戸を開けて“来店”するご近所さんを、元店主の田中綾子さん(76)の明るい声が出迎える。テーブルを囲んで近況報告やご近所さんの体調を案じるほか、地域の話題、家事や庭の草退治、農作物の害獣対策など、会話が盛り上がる。しゃべらずに、楽しそうに耳を傾ける人もいる。
テーブルには漬物や菓子、季節の食材を使ったお茶請けが並ぶことも。綾子さんの手製だったり、来店者が持ち寄ったりする。ハチクの煮物を食べながら「ニシンを入れると全然違うでね。味が出る。おいしいよ」と話す90代の女性。向かいから「どうやって煮るだ?」と尋ねる声が上がり、たちまち口頭の料理教室が始まる。そんなにぎやかな様子を、綾子さんの夫の万博(かずひろ)さん(80)が見守る。

田中さん夫婦が高齢などを理由に店を閉めたのは、消費税が10%になった2019年10月の前。長年店で、客や業者と接してきた綾子さんが「ぼけてしまわないか」と、万博さんは心配した。そんな折、「地域に愛された店をサロンに活用してはどうか」と、当時の村の生活支援コーディネーターから提案された。
長年の利用への感謝を込め、田中さん夫婦は週1回、ボランティアで旧店舗をサロンとして開放することに。足元が冷えないよう床を断熱するなど改修し、お年寄りだけでなく子どもや散歩中の人など、誰でも立ち寄れる場所にリニューアルした。決まった取り組みはせず、ただおしゃべりするだけの空間。「人の悪口を言わない」のが唯一のルールだ。
「田中行ってくるか―」。なじみだった店ならではの気安さは、お年寄りにはありがたいという。サロン開催日に夫婦の都合が悪い場合は、近所の人らが“店番”を買って出る。
開始当初から通う藤澤英子さん(89)は「人の話が聞けて、皆の顔を見るだけでも楽しい」。近くの88歳の女性は「閉店は残念だったが、また開いてくれた。しゃべって笑って、皆と顔を合わせるのが楽しみ」と話す。

「『明日はサロン』と思うと、お茶請けを作ろう、誰が来てくれるかな?と考え、動いて張り合いになる。私たちが皆さんから元気をもらっている。にぎやかに集まってもらえて幸せ」と綾子さん。1人暮らしのお年寄りの参加もあり、万博さんは「孤立の防止や見守りの一助になれば」と願う。
違った形でも店が開けば、地域が活気づく。「そろそろ、おいとましますか」。サロンを後にするご近所さんの背中に、夫婦は「じゃあ来週ね」と優しく声をかけて見送った。
サロンは毎週木曜午前10時~正午、午後2~4時。場所は中部会館の近く。