仲間とリモートセッション 自室で生演奏楽しむ

離れても「一つになる感覚」

リモートばやりの昨今、音楽の演奏も遠く離れた仲間と楽しむ人たちがいる。
松本市内で介護福祉士として働く池上七星(ななせ)さん(24)は、実家で過ごす休日、こう告げて家族団らんの輪から離れる。「ちょっと歌ってくる」。向かう先は、自分の部屋だ。
ヘッドホンを着け、スマートフォンを手にする。専用アプリを立ち上げ、別の場所にいる仲間とインターネットでつながる。これで準備完了、セッションスタートだ。
ヘッドホンから聞こえるギターとドラムに合わせ、スマホに向かって歌う。「その場で音楽をやっているという感覚がある」。自室がまるでスタジオだ。
実は、1年前まではカラオケで歌うくらい。「生演奏で歌えるなんて夢みたい」。リモート機能で縁がつながった。

カラオケ好きから40歳差バンドに

1年前、池上七星さんはお年寄りを迎えに行く車で雑談していた。話題はカラオケ。「歌うのが好き」と話すと、「じゃあ、バンドで歌ってみる?」。
同じ特別養護老人ホームで働く「運転のおじさん」からの、いきなりの誘いだった。驚いたが、生演奏で歌えるかもと思うと、気持ちが浮き立った。「すごく興味があります」と即答した。
「よく受けてくれた」と男性(65)は振り返る。実は、澤田権左ェ門の名前で度々ステージに立つ手だれのパーカッショニストだった。10代でバンドを始め、仕事の傍ら音楽を続けてきた。
4年前から組むのが小口和浩さん(61)。10歳でギターを始め、相澤病院(松本市)で医師として働く今も弾き続けている。
ギターとパーカッション。「最小限でやるのが面白い」と小口さん。2人編成を楽しんできたが、問題があった。「飲食店で演奏しても誰も聞いてくれない」
「ボーカル(歌)を入れたいね」。そんな思いを募らせた折に、池上さんが歌好きだと分かった。「経験より人柄が大切」と澤田さん。普段のやりとりから人柄を見込んでオファーし、40歳差バンドが誕生した。

初ライブも経験 歌への意欲高く

池上さんの好みは、米津玄師やバックナンバーといった今どきの曲。一方、澤田さんと小口さんはボサノバやジャズ。池上さんの歌える曲を、おじさん2人の志向にアレンジすることから、ギャップを埋めていった。
物理的な距離はリモートシステムでなくした。3人みんなが医療や介護の関係者で、とりわけ感染防止に気を使う。重宝しているのが、楽器大手のヤマハが提供するアプリだ。つなぐのは音声だけ。映像がない代わりに、ずれを感じない合奏ができるという。
離ればなれの初セッションは昨年7月。池上さんは「鳥肌が立った」。好きな曲が自分の声の音域に合わせて演奏される。歌が遅れても、ベテラン2人は寄り添ってくれた。「一つになっている感覚があった」。週に1回程度のセッションが始まった。
昨年11月には、縄手通りの「ストーリーハウスカフェ&バー」で初ライブに臨んだ。「堂々としたものだった」と澤田さん。翌月も同じ舞台に立った。
「歌がどんどん好きになる。知らない曲も覚えたい」と池上さん。活動1年、バンド名は「トライシクル」(三輪車)に決まった。コロナ後の本格ライブ活動を楽しみに、リモートで技術や経験の差を縮めている。