
着なくなった着物がたんすにしまいっぱなしというのは、よく聞く話。捨てるに捨てられないものを、生地として再活用するのも手だ。安曇野市穂高有明の古田穂波さん(60)は、着物を自己流で農作業着や帽子、バッグなどにリメーク。3年前に退職してから入れ込みだした手作業の作品は、500点を数えるという。
古田さんは飯田市出身。実家では、90歳の母親が元気で1人暮らしをしている。着物がたくさんあるが、着なくなった物も多い。
そこで娘の出番。「母だけでは断捨離できないから、『これはどう?』って」。2人で相談し、安曇野に持ち帰る。
仕立てられた時期は母親の若い頃、終戦後間もなくだ。ざっと70年ほどたつが、ものはいい。祖父が野菜と交換して糸を手に入れ、織った生地もあるという。「そんな話を聞くと、本当に捨てられない」
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着物の糸をほどき、洗って反物に。本を参考にして型紙を作り、はさみを入れていく。裁縫の経験はなく、自己流だ。「スーパー適当」と笑う。
それでも、できたものは立派に使える。重宝しているものの一つが、農作業着だ。上着はポケットをたくさん付けた。ゆったりしたつくりで風通しがよく、木綿の手触りはさらさら。息子夫婦のリンゴ園で作業を手伝っているが、暑い中でもべたつかないという。
もんぺ風の外見に、母親からは「自分は着ようと思わない。戦争を思い出す」と言われた一方、リンゴ園で一緒に働く若い女性には「かわいい」と好評だ。
6月には息子に勧められ、JAあづみなどが開いた野良着ファッションショーに出演。個性が評価され、「ベストコンビネーション賞」を受けた。
作品の半分ほどは孫用で、「年代物の洋服」となって着られている。母親も思い入れのあったウール生地で作った小物入れは、見せると「えらい気に入ってくれた」。
何を作るかは、柄や材質を見ながら考える。「布を見ると、うずうずする」。自分より長く生きた布地たちを、現役に戻す作業を楽しんでいる。