【記者兼農家のUターンto農】#64 鳥獣害

器用に食い散らかすヤツら

ぬれぎぬの可能性はある。ただ、ヤツに違いないことは、衆目の一致するところだ。
ある朝、収穫時期が近づいたトウモロコシが、皮をむかれ、畑にうち捨てられていた。「ハクビシンじゃない?」と親は言った。
漢字で書くと「白鼻芯」。タヌキに似た、ジャコウネコ科の夜行性動物だ。白い鼻筋が特徴で、画像を見る限り、愛らしい。
だが、農家には厄介者だ。雑食で、夜に来ては食べ頃の野菜や果樹に手を出していく。
近所の畑にも、かじられたトウモロコシが転がっていた。皮が上手にむかれていて、手先というか、足先の器用さが見てとれる。
「そうなんです。全部食べるならまだいいけど、ちょっとだけで」とJA職員。おいしいところを食い散らかす。悪評がハクビシンには定着している。
ただ、彼は小物。農作物を荒らす動物といえば、イノシシ、サル、シカだ。農水省のまとめによると、野生鳥獣の被害額は2020年度で161億円。その7割が3巨頭のしわざだった。
長野県の被害額は、桁違いの北海道を除くと全国4番目で、約5億円。3種によるものは、その半分だった。全国と比べてイノシシの悪さが目立たない。その分、シカの存在感が大きく、全体の4分の1を占めた。
山から下りてきて、野菜の苗や葉を食べてしまう。松本市農業委員会の元会長を取材したとき、問わず語りに防護柵設置の苦労を話してくれた。それほど悩まされる。
各地の対策のかいあって、鳥獣害は減っている。長野県の場合、ピークだった07年度の10億円から半減した。
でも、ハクビシンはしたたかだ。全国で4億円余りの被害額はほとんど変わらない。器用に、食い散らかし生活を続けている。
うちの対策の定番は、飼い犬の抜け毛を畑のそこかしこに置くこと。臭いがヤツを警戒させるというもくろみだ。獣をもって獣を制す。効果あってか、被害は広がっていない。行儀のいい柴犬がいっそういとおしい。