【記者兼農家のUターンto農】#65 鳥獣害その後

農水省の「野生鳥獣被害防止マニュアル―ハクビシン」(2008年)が示す食害の例

ハクビシンはえん罪だった?

本当にぬれぎぬだったかもしれない。前回取り上げたトウモロコシの食害。ハクビシンの仕業だと断定的に書いたけれど…。
鳥獣害全般のことを聞こうと、県農業技術課の泉川寛子さんに話を聞いた。すると、確かにハクビシンの被害は多いが思い込みもあるという。「やられた様子を見て、きっとそうだと思っても、外れることがある」。ドキッとした。
食べ跡を専門家に見てもらうのが確実だという。市町村の農業担当課などで相談できる。写真を見て、カラスの食べた跡だと分かることもある。
農水省のインターネット公開情報も参考になるという。急ぎ、検索してみた。トウモロコシの食害例があった。食べた動物として挙がるのは、ハクビシンのほか、同じく中型獣のタヌキやアライグマ。食べ跡は、特にタヌキのと似ている…。
農水省の資料は、茎の様子にも注意を促す。横倒しになっているならタヌキ、斜めならハクビシンだという。さて、うちはどうだったか。
実は、トウモロコシは、収穫を終えて人の手によって刈り倒された後だった。「現場保存」を怠っていたわけで、これでは真相はやぶの中。「現状を正しく知って対策するのが大事です」。泉川さんの言葉が胸に刺さる。
県は、3本柱で鳥獣害全体に取り組んでいる。柵などで田畑への侵入を防ぐ、捕獲などで害獣を減らす、人と生活環境を分ける、の三つだ。3番目の柱は、人と暮らしが重ならなければ食べられないという発想だ。
ここで人間界の空き家問題が障害の一つに持ち上がる。ハクビシンやアライグマに格好のねぐらが、人里にモザイク状に広がっている。シカなどに比べ、彼らの食害が目立ってきた要因だ。
農業は地域社会とつながっていることを改めて思う。えん罪を公にしてしまった可能性も含め、ハクビシンを単純な悪者と見ることは、もうできそうにない。