【小林千寿・碁縁旅人】#34 北イタリア

2000年8月に訪れたベニスで。ゴンドラの粋な船頭さん

イタリアは欧州の中で囲碁が特に盛んでなかったので、他国と比べると縁が少ないです。
それでも1974年夏、ローマ、ミラノ、ベニスとムラノ島。96年8月、囲碁の欧州選手権戦開催地のアバノ。そこからロミオとジュリエットと、コロシアムの野外オペラで有名なベローナ、ベニスを観光。
2000年5月末には、ミラノ囲碁大会後に友人から勧められたミラノの北のコモ湖を訪ねました。その時は円高に乗じてコモ湖に面した五つ星ホテル「ヴィラ・デステ」に宿泊。
チェックインして広大な庭を散歩してフロントに戻ると、どこから観(み)ても「セレブ」のカップルが続々と庭に向かっていたので、その流れに沿ってテラスへ。空いている席に座ると、超高級なクラシック・カーが次々と目の前に現れ、持ち主と思われる人々、その友人たちが喝采。思いがけないリッチな空間にのみ込まれ、唖然(あぜん)として見学しました。
後に、それが1929年に起源を持つ世界最古の自動車コンクール「コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ」だと知りました。
その興奮冷めやらぬ夜、ホテルで夕食を取りました。高級ホテルのイタリア料理!素晴らしいダイニング、真っ白いテーブルクロス、シャキッとしたボーイさんたち。
最初にパンが出されたので、本場イタリアのオリーブオイルと塩をパンにつけようと思い注文しました。
すると黒服のマネジャーとボーイさんが集まってきて、「オリーブオイルを何に使うのですか?」と慇懃無礼(いんぎんぶれい)に聞かれたのです。
「日本のイタリア料理店ではパンにつけるのは普通です」と答えると、かなり驚かれました。そこで「ここではパンに何をつけるのですか?」と聞き返すと、「バターです!オリーブをつけるのは南イタリアの人々です」と。
一つの国でも北と南は違うと聞かされていましたが、イタリアも南北の境界線が食習慣にもありました。

(日本棋院・棋士六段、松本市出身)