【記者兼農家のUターンto農】#67 加工トマト

信州の人と土地に育てられ

子どもの頃、夏の手伝いといえば加工トマトの収穫だった。ジュースやケチャップ向けで、そのままでも食べられたが、味には癖があった。
30年余り前にうちは栽培をやめたが、その後、品種の改良が進んだという。今夏には、ホテルブエナビスタ(松本市本庄1)のレストランで、生食も提供するビュッフェが企画された。そんなにおいしくなったのか。かつての出荷先、ナガノトマト(同市村井町南3)を訪ねた。
「生で食べて、昔のトマトのようだと喜ぶ方がいます」。同社から畑に向かう車中で、農業生産課長の安保(あぼ)範久さん(58)が教えてくれた。今時の生食用トマトと違って、甘いというより濃いらしい。その味わいを懐かしむ人がいる。
私には、畑の光景がまず懐かしかった。加工トマトの栽培は、つるを地面にはわせる。繁茂する葉っぱの下からのぞく赤い玉。片手に取って軽くひねれば、簡単にもげるのも変わりなかった。
味は記憶と違った。癖がなく、むしろあっさり感じる。子どもの頃は塩や砂糖をかけたはずだが、味付けなしで食べられる。生食用にしては濃い、となるかもしれない。
同社独自のブランド「愛果(まなか)」だ。開発に10年かけ、ジュースにしておいしいトマトを目指した。うまみが強く、酸っぱくなく。果肉はゼリー部多めで、真っ赤に色づく。
初の登録認可は2009年。その後も改良は続いた。同社でいいと思っても、作りやすさで農家の眼鏡にかなわなかった品種もある。信州の、人の好みと土地の特性に選ばれ、育てられてきた。
収穫方法は昔と同じ手摘み。だが、量は激減した。同社の契約農家は、1989年に1000軒だったのが、去年は130軒。高齢化がやめる主な理由という。うちも祖父の代で一区切りとなった。
信州の夏を味わえる加工トマト。ブエナビスタでのビュッフェ企画で31日まで、うまみが詰まったピューレをグラスで飲めるという。