【記者兼農家のUターンto農】#68 夏野菜

未熟の味はみずみずしく…

未熟な味わいを意識した夏だった。
ある朝の作業中、ラジオから「キュウリの語源は黄瓜(きうり)」という説が聞こえてきた。緑色のキュウリを収穫しないでおくと、黄色くなる。江戸時代までは、この熟した実を食べていた。黄色いウリだから黄瓜、これがなまってキュウリになったという。
調べてみると、当時は、不人気な野菜だったらしい。さもありなん。品種の特性は違うだろうが、今の熟したキュウリは、厚ぼったくてフニャフニャ。食べる気にならない。
それが明治以降、緑のうちに食べるようになって人気が出た。ポリポリ、シャキシャキ。夏らしい、あのみずみずしさは、未熟さなのだ。
キュウリと並ぶ夏野菜の代表格、ナスも未熟果を食べる。熟すと、種は固く、身はスカスカ。ボケナスだ。
穀物にも未熟を味わうものがあった。トウモロコシ。プリプリした粒は一つ一つが種子のもとで、収穫しないでおくと、しなびて固くなる。牛などの家畜はこの完熟したものを食べるが、人間はその前、糖分をたっぷり蓄えた粒々の甘さを楽しむ。
ただ、この糖分は収穫すると、どんどん失われる。光合成できなくなった作物が、代わりのエネルギー源として使うからだ。取ったら早くゆでる。甘いトウモロコシを食べるための心得だ。
同じことが枝豆にも言えると思い知ったのは、今年初めて栽培してみたからだ。枝豆は熟せば大豆。つまり、トウモロコシと同じく種子のもとだ。
塩味で引き立つ甘みを存分に味わうためには、枝から取ってから速やかに食べたい。8月、わせ種が食べ頃を迎えたが、作り過ぎてたくさん適期を逃してしまった。未熟の味はせわしくもある。
熟して味わう穀物もある。夏のエネルギーをため込んで、稲穂がこうべを垂れてきた。米をはじめとした収穫の秋を迎える。じっくり味わいたい。