木の成長オーナーに生中継「テレファーム」

過程伝え一緒に育てる感覚を

北アルプスの麓、安曇野市三郷小倉のリンゴ畑。古田然(ぜん)さん(36)が自撮り棒に付けたスマートフォンに話しかける。「雨は何とかなりそうです」
画面の向こうは県内だったり東京だったり。古田さんが営む「弐七(にいなな)農園」の木のオーナーたちとインターネットでつながっている。「皆さんの木を見ていこうかな」。畑から生中継する。
定規を実に当て「10センチを超えてます。葉っぱも元気」。オーナーとやりとりして、畑を回る。
ウェブ会議システムのZoom(ズーム)を使い、テレワークならぬ「テレファーム(遠隔農園)」と名付け、今年から始めた。月に2回程度。「育つ過程をめでることを楽しみたい人はいる」と手応えを感じている。

成長見る面白さ動画で伝えたい

古田然さんは飯田市で生まれ、安曇野市で育った。大学時代の半年間、インドで過ごした。国際的な開発援助に興味があったが、非政府組織(NGO)で人々の暮らしを支援するうち、「社会を内側からよくする」という考えに変わった。地域に根差そうと、県農協中央会に就職した。
実家は農家ではない。広報担当になって取材し、特に若手が悩む姿に関心が向いた。「いろいろ工夫していて、面白いと思えた。農業経営もいいな、と」。農業で地域に根差そうと決めた。
土地は、地元の安曇野にした。作物は「リンゴ畑が気持ちよかった」と決めた。
農家で3年研修して独立し、今年で6年目。1・8ヘクタールを妻の幸子さん(36、鹿児島県出身)と営む。2人とも誕生日が27日だから、「弐七農園」と付けた。
一部の木を対象に、オーナー制度を始めたのは2018年。木を選んでもらう時期には、農園でバーベキューパーティーを開いた。「リンゴ畑の雰囲気の好きな人が多いだろうと、来てもらうことにした」
自分が好きなことを同じように好きな人は他にもいる、という発想は、テレファームにもつながる。「育つのを見るのは面白いはず」。写真をオーナーに送っていたが、コロナ禍が長引く今年、オンライン中継することに。木選びからズームを導入した。

直接のやりとり木への愛着にも

東京都狛江市の自営業、古畑健太郎さん(36)は3回目のテレファーム参加。「写真より、動画の方が様子が分かる。細かなことをじかに質問できる」。妻の理枝さん(35)も「ズームは他のオーナーとのやりとりも聞けて、なるほどと思うことがある」と、満足度は高まったよう。
古田さんも「質問されると、興味を持ってくれているんだと思えて、うれしい」。病気や農薬のことは「隠してもしょうがない」と聞かれずとも伝える。
今年のオーナーは、70本弱の40家族余り。テレファーム参加者はまだ少数派だが、古田さんは、リンゴ作りの感性の共有に可能性を感じている。
「オーナー木でリンゴの実が何個取れるかだけを気にするのは、ただの買い物。リンゴ農家は木を、過程を見ている。定期的に見て木に愛着を持てば、農家の感覚に近づいてもらえる」
来年は、幼木のオーナーも募る計画だ。インスタグラムで情報を発信している。