奈良井伝統の曲物 時代に合わせ進化

若者が魅力を感じる仕事に

ガラスでもなく、陶器でもなく、「曲物(まげもの)」の器で水やコーヒーを飲んでみたら─。
木の薄板を熱湯に数時間漬けて柔らかくし円形や楕円(だえん)形に曲げ、合わせ目を山桜の皮でとじ底面を付ける。奈良井の曲物は、400年以上の歴史がある県の伝統的工芸品だ。
小坂屋漆器店を営む小島貴幸さん(58、塩尻市奈良井)はその伝統を受け継ぎつつ、時代に合わせた形に進化させる伝統工芸士だ。
新しく取り組むのがコップや、コーヒー豆などを入れる容器といった現代の生活になじむ食卓小物。県地域資源製品開発支援センターと共同開発した。
奈良井宿に30軒以上あった曲物工房はいま小島さんだけに。「現代人の心を少しでも動かせる曲物を作りたい」という小島さんを訪ねた。

塗師に曲物師 営業まで1人で

奈良井宿の一角にある工房で小島貴幸さんが曲物に漆を塗っている。側面は木曽ヒノキ、底面は木曽サワラ、いずれも天然木を使っている。木目の存在感を生かした漆塗りで、はかないほどの薄さと軽さ、滑らかな手触りが印象的だ。
「KI(き)GA(が)RU(る)」と名付けた新商品。気軽に使ってほしいという願いと器の重さが軽いという意味を込めた。コップ状の「タンブラー」と、コーヒー豆や茶葉などの容器に重宝しそうな「キャニスター」、菓子などを入れる「マルチストッカー」の3シリーズだ。
シンプルで使いやすいデザインにこだわった。県地域資源製品開発支援センターと共同開発したことで短時間で完成度の高いものができたという。「職人では思い付かないこと、職人だから分かること、それぞれを生かすことができた」と小島さん。
代々、曲物を営む家で生まれ、高校を卒業後、家業に就いた。塗師(ぬし)(漆塗り職人)を担当し、曲物師は父・俊男さんの仕事だった。
42歳の時、俊男さんが76歳で他界した。それまで曲物師の技術を教わったことがなかった小島さんだが後継者となることを決意。俊男さんの作業を思い出しながら始めた。頼りは俊男さんが残した数々の曲物。「失敗作も残してあり、自分がうまくいかないことは父もそうだったと思えて心強かった」
塗師に曲物師の仕事が加わり、数え切れない工程を1人で抱え、最初はパニック状態だったという。いくつもの壁を乗り越え、他産地の職人とも交流。原木を目利きして仕入れ、加工、製造、営業までを1人でこなす。ここまで携わる職人は業界でもほぼいないという。

現代の生活になじむ新商品

艶やかで重厚感のある「溜塗(ためぬり)」の曲物が主流だった父の時代。小島さんは、素材感を生かせて耐久性もある「すり漆」仕上げで価格を抑え、実用品として使いやすくした。若い世代にも受け、定番の弁当箱は全国から注文が入り納品待ちという人気商品だ。
今回の新商品は、伝統工芸を残しつつ現代の生活にもあった曲物を|という小島さんと県地域資源製品開発支援センターの考えが一致し、プロジェクトが始動。「さまざまな物に対し、時代は薄さを求めている」と、小島さんが木の厚さにこだわり、薄くて耐久性のある1・2ミリまで追及した。
開発は終わりでなくスタート。今後はマーケティングやパッケージの検討などにも取り組む。「売れる物を作って若者が引き継ぎたいと思えるような魅力ある仕事にしていかなくちゃ」と小島さん。曲物の後継者として時代の先を見据え、全力で走り続けていく。
新商品の問い合わせは小島さんTEL090・1869・8379