「信州のカノープス」語る 渡部潤一さん講演とトークセッション

MGプレスは19日、創刊1000号(6月4日付)の記念事業「信州のカノープスを語る」を信毎メディアガーデン(松本市中央2)で開いた。国立天文台(東京都三鷹市)上席教授の渡部潤一さん(61)の講演会や、南半球の星カノープスを35年以上追い続ける本紙の丸山祥司・写真記者(77)とのトークセッションを行い、121人が耳を傾けた。

県内観測が難しい憧れの星
6年かけ木崎湖で撮影

カノープスは、南半球に輝くりゅうこつ座の1等星。県内では見ることも撮影することも難しい星で、天文ファンにとっては憧れの星だ。
トークセッションで、渡部さんは丸山記者の写真について「日本で星の写真を撮る人はたくさんいるが、地元の地の利を生かし、一つの写真(作品)を何年もかけ、チャンスを逃さず撮っているのが本当にすごい」と評価。その上で、丸山記者と25年にわたる交流を始めるきっかけとなったエピソードを披露した。

「約20年前。ものすごい興奮した声で何かが撮れたという電話が丸山さんからかかってきた。何が撮れたんですかと聞いたら、『木崎湖の上のカノープス』とおっしゃった。私は木崎湖の上を渡っていく『龍燈(りゅうとう)伝説』は知っていたが、その写真を実際に撮る人はいないと思っていた」と渡部さん。
これに対し、丸山記者は「1997年12月12日付の信濃毎日新聞。渡部先生のコラム『星空の散歩道』の中で、『真冬の木崎湖に龍が渡る』という伝説が紹介された。当時、信毎写真部の記者だった私はその写真を撮って県民に見せるのが使命だと燃え上がった」と振り返った。
以後、その撮影に執念を燃やした丸山記者だったが、「何度、現地に通っても肉眼では見えない。フィルムの感度を上げれば撮れるんですけど…。自分の目で見えないものを新聞に載せることはできない」という困難に直面した。
「2003年3月4日。大陸から張り出した高気圧の中心が松本だった。『これなら大町はいける』と木崎湖に向かった。カノープスのある位置は分かる。その位置を見たらパッと見えたんです。これで撮れると思った。その2日後、信毎の社会面にその写真が載った。このこだわりがあったから撮影に6年もかかり、現地に131回も通ったんです」と、初めて撮影に成功した時のことを語った。「先生のコラムをきっかけに自分の人生が変わった。それほど、カノープスの魅力に取りつかれてしまったんです」
丸山記者がそこまでしてカノープスを追い続けるのは、何げない信州の心象風景に読者が癒やされ感動したり、勇気が湧いたりする写真にして届けたいという思いから。トークセッションでは他に、会場に展示した、ニホンジカや白鳥など野生動物と共演するカノープスをはじめ、浅間山の火(か)焔(えん)の中をくぐるような姿や、県内の山頂から撮った富士山をまたぐ光景など、これまで撮影に成功した作品を紹介した。

【国立天文台上席教授 渡部潤一さん講演】
季節象徴する星を見上げて

渡部さんは「星空浴の薦め─見上げることから始めよう」のテーマで講演した。

「星空浴」というのは、私が作った言葉で定義はないが、森林浴や海水浴と同じように、気軽に星空を眺めて楽しむということ。効能は癒やし、闇の力による想像力の創出、絆、宇宙から地球を見下ろす視点だ。
最近は星がよく見えないという声を聞く。長野県は全市町村で天の川が見えるという特別な県だが、光害でいうと世界の中でも日本はピカ一だ。東京はひどい。それでも長野県は恵まれ、「宇宙県」といわれている。
天の川はさすがに街中で見るのは難しいが、目を凝らすと季節を象徴する星は見える。でもよく言われるのは「家の前でちょっと見上げたけど見えなかったよ」と。どのくらい見上げていたかを聞くと、「10秒か20秒」だと。それは短すぎる。人間の目は暗い所に慣れるのに、5~10分はかかる。その時間は長く感じるが、それが日常生活で時間に追われている中で、一つの清涼剤となり、心が落ち着く。そして星が見えてくる。それでもその時間が我慢できない人はプラネタリウムに行ってほしい。
季節のランドマークに、春の大曲線、夏の大三角、秋の四辺形、冬の大三角がある。中でも全天で最も明るい恒星のシリウスが見えるなど冬の星空は1等星が一番多い時季で、絢爛(けんらん)豪華な星を見ることができる。このシリウスの下、南にあるのがカノープス。南の地平線に、ほんのひとときだけ現れる星だ。
天空のイベントもある。七夕、お月見、天文現象だ。七夕の起源は中国だが、中国では何もしない。むしろ日本の方が盛んで、ササ飾りなどに中国人は驚く。江戸時代に大流行して1年で一番のお祭りだった。地方によっては「七夕人形」を飾るところもある。皆さんは当たり前だと思っているが、実は七夕人形を飾るのは松本、山梨、(兵庫県)姫路市しかない。特に松本は、織り姫、ひこ星の人形だけでなく、2人が川を渡るのを助ける役の人形もある。これは松本でしか見たことがない。すごく珍しい人形文化で、大事に残してほしい。