松本のギター産業と金沢の伝統工芸・加賀友禅がコラボ

職人2人切磋琢磨 入魂の逸品

黒地のボディーに赤と青2輪のボタンの絵柄を大胆に施した、エレキギターがお目見えした。
一見、花の絵をギターに直接描いたように見えるが、実は繊細な色絵が施された薄い絹地を木製のギターボディーに貼って制作した。
松本市が全国に誇るギター産業と、江戸時代から続く金沢市一帯の伝統工芸、加賀友禅のコラボレーションから生まれた商品だ。異なる産業をけん引する2人の職人が、「己の魂」に火を付け合い、切磋琢磨(せっさたくま)。技術の粋を駆使して唯一無二のギターを作り上げた。
11月5、6日に松本パルコ(中央1)で開く、県内に拠点を置くギター製造メーカーなどが一堂に会する「信州ギター祭り2022」で初めて一般公開されるこのギター。一見の価値ありだ。

金沢モデル新作妙案に協力者は

絹の染め物を身にまとったギターには、独特の美しさがあった。
ギター本体は、弦楽器製造などのスギミュージカル・インストゥルメンツ(松本市平田西)社長の杉本眞さん(68)が受け持った。作り出す楽器が国内外のミュージシャンから支持され、「カリスマビルダー」と呼ばれる。一方、日本を代表する伝統工芸である加賀友禅は、杉浦伸さん(69、金沢市)が染め上げた。手堅い筆致と実績に裏打ちされた作品から、「次世代の重鎮」と目される人物だ。
「信州ギター祭り」で数年前から、スギミュージカル・インストゥルメンツは、JR金沢駅のシンボル「鼓門(つづみもん)」をイメージしたギターなど「金沢モデル」を出展してきた。
同社の国内販売マネージャー、丸野内哲平さんと、祭りの企画に携わる島村楽器金沢フォーラス店(金沢市)の越野正嗣店長が約1年半前、2022年の祭りでどんな「金沢モデル」を出展するかを相談した。話し合いの中から出てきた言葉が「加賀友禅」と、これを「ギターに実際に使う」だった。
越野さんは早速、協力してくれる職人を探し始めた。当初は「こうした企画に乗ってくれる職人はいないのでは」と思っていたという。ところが、一般社団法人加賀友禅文化協会を通じて紹介された杉浦さんは「新しいことへの挑戦」に興味津々だった。
越野さんの要望を聞いた杉浦さんは、下絵となる図案を60枚以上も作成。熱意を感じ取った杉本さんも職人魂に火が付いた。

かつてない挑戦出来栄えいかに

2人はオンラインで図案を選択。6種類まで絞り込み、最終的に赤と青のボタンの花に決めた。杉本さんは「キクもすてきだったが、繊細過ぎてステージ栄えしない。ボタンのダイナミックさが良かった」と振り返る。
2人にとっての困難はここからだった。かつてカーテンなど厚手の生地をギターに貼った経験があった杉本さんだが、極薄の絹地を貼るのは初めて。「接着剤が表に染み出た」。一方、杉浦さんも着物など一般的な用途以外に作品を使った経験はほとんどない。「絹地がぬれた時の色が完成形になるように仕上げて」と言われ困惑した。
3日、杉本さん一行は金沢市の加賀友禅会館に完成したギターを持ち込んだ。杉本さんと杉浦さんが直接会うのも、杉浦さんがギターを見るのもこの日が初めてだ。
ケースから出されたギターを一目見た杉浦さんは驚きで目を丸くし、「染めとは思えない」と一言。傍らで杉本さんは、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
杉浦さんは「楽しみの半面、心配もあった。出来栄えには内心驚いている。加賀友禅の新たな可能性につながるといい」と期待。杉本さんは「色の変化を一番心配したが、思った以上に鮮やかな色に仕上がった」と満足そうに話した。
「信州ギター祭り2022」の詳細、問い合わせはウェブサイトを検索。