生きがい見つけ至福の日々-版画家・太田克己さん

松本市の梓川アカデミア館(梓川倭)は11月3日まで、同市新村在住の版画家、太田克己さん(77)の作品展「多色摺(ず)り木版画展~版画ならではの表現と色彩を求めて」を開いている。太田さんにとって3回目の個展だが、美術館など施設が主催する企画展は初めて。太田さんは、版画家としての実力を「認めてもらえたのでは」と喜び、20年以上にわたる創作活動の「集大成」と位置付けている。

「集大成」初の企画展に喜び

主会場では「山のある風景」「水のある風景」「田園風景」「建造物」「四季の色」のテーマごとに作品を分け、約80点を展示。別の会場では、版画を始めた頃の小作品などを17点展示している。
この中で、2010年の「七色大カエデ・大峰高原」は、題名通り、池田町大峰高原の紅葉した大カエデが題材。大きさを表現するため、円形の木全体ではなく、描写を株元を中心とした部分に絞り、全体像を想像させた。作品の中に当時はなかったという柵も配置し、大きさを際立たせた。
今年6月に制作した最新作「おぼろ月」は、ほのかにかすんだ月を、これまでの経験で得た技術を駆使して、月の輪郭をぼかすなどして表現した。
また、2000年の「帆立貝」は太田さんの初作品で、「この作品を彫ることができ、版画を続けていく自信になった」と振り返る。

大手電機メーカーのサラリーマンだった太田さん。定年退職後の生きがいを探していたときに、版画作品と出合い、衝撃を受けた。
以後、55歳のときから、ほぼ独学で版画を学ぶなど創作活動に没頭。平均で版木を10枚は使うという多色摺りは、綿密な計算が必要で、作品に使う紙の伸び縮みを防ぐため、常に紙に水分を含ませたり、版木を載せる「見当盤」も改良しながら自作したりするなど工夫を惜しまない。
学生時代から「深夜から明け方が頭がさえる」という習慣は今も変わらず、午前2、3時ごろ起床して版画と向き合っているときが「至福の時間」という。

今回の作品展はアカデミア館が年1、2回開く企画展の一つ。太田さんを取り上げたことについて担当学芸員の岩垂なつきさん(32)は「地域のアーティストに焦点を当てるのが企画展のテーマ。太田さんの鮮やかな色彩と優れた技術を見てほしい」と期待する。
太田さんは「祖父が木彫家で、父が大工。木版画に出合ったのは運命だったかも。その上、作品が認められて幸せです」と笑顔を見せた。
午前9時~午後5時。月曜休館。高校生以上200円、小中学生100円。同館TEL0263・78・5000