染色家・高砂明子さん 春夏秋冬の染め仕事 松本市で6年ぶりの個展

4月、ベニバナの種をまく。5月にはアイの種まきをし、6~7月の早朝はベニバナの花摘みに汗を流す。夏場はアイの葉を刈り、染料にする作業を繰り返す―。
これが塩尻市広丘高出の染色家、高砂(たかすな)明子さん(70)の春から秋にかけての日々だ。コブナグサなど、他の草花も育てて採取し、染料にする仕事も加わる。
できた染料を使って生み出すのは、独特の絵画。絹や木綿の布に、墨絵、絞り染め、型染めなどの技法を組み合わせて描き、額に入れて作品にする。「染色植画」と名付けた特有のアートを完成させるのは、主に晩秋から冬の仕事だ。デザインや技法の選択など、考えながら描く時間が続く。
10月21~25日、松本市両島のギャラリー風雅で6年ぶりの個展を開く。

高砂明子さんは秋田県生まれ。多摩美術大(東京)で染色を専攻し、型染め、筒描き、ろうけつ染めなど、基本の技術を習得した。結婚に伴い信州に。子育て中、布を染める仕事はしなかったが、代わりに、夫の父が畑を耕し作物を育てるさまをそばで見て過ごした。「おかげで、土と向き合う姿勢が学べた」とほほ笑む。
50歳を迎えた頃、「染色の技法を生かした作品づくりをしたい」と思うようになった。染料として選んだのは植物。土のぬくもりを大切にしながら作業がしたかったという。先達の本を読み、学生時代のノートを出して学び直した。デッサンにも時間を割いた。
育てた植物染料で布を染め、絵は墨で描いて作品にすることから始めた。「なかなか思うような色が出せなかった」と振り返る。
工夫を重ね、個展を開くことができたのは7年後。工房名は「土・糸・陽(どうしよう)」と名付けた。再出発から来る戸惑いと、土や太陽、布など大切なものを入れ込んだ、ちょっとおちゃめな名前だ。
昨年は敷地内の蔵を改造して新しい工房兼ギャラリーを設けた。まだ一般公開していないが、今年5月から使っている。表の看板はもちろん「土・糸・陽」。
工房とギャラリーの間を仕切る戸は、古い蔵の扉を生かした。「何度も洗って、最後に自分で柿渋を10回ほど塗った。ひと夏かかった」と苦笑する。
ギャラリー風雅で開く個展には、縦長の大きな作品「きおくのおもちゃ箱」や、所属する太平洋美術会の本展に出した作品「詩(うた)」など20点余の「染色植画」と、手芸を取り入れた額絵を5点、水彩画10点を展示する予定だ。自身で縫ったバッグやスカーフなども並べる。
「きおくの―」は、いろいろ詰まったおもちゃ箱の中に、ひときわ大きなこけし風の人形が立つ。全体がピンクがかっていて、「この色をベニバナで出したかったので、効果のある木綿地に描いた」。こけしの着物などはアイの絞り染め、輪郭は墨で取り、型染めも使った。
「詩」には絹地を選んだ。出したい色によって生地を変えるという。アイの絞りや、筒描きで少女の髪の毛を表し、顔の前に抱えたマリーゴールドの花束は友禅染のように防染した線を輪郭にし、筆で彩色した。
最近始めた技法は、色の違う布を重ねて、くりぬくように模様の形に縫っていくもの。パナマなどに伝わる手芸「モラ」を参考にした。布はもちろん、自分で染めた物を使用。「『染色植画』は図柄から技法まで、手順を考え続ける。こちらは、ただ無心でできる」
個展は午前10時~午後5時(最終日は3時)。風雅TEL0263・25・8544