美しさと厳しさ―涸沢紅葉劇場 くすむ紅 けむる圏谷

夜空を覆う雨雲が突然開き、星空が広がり秋と冬の星座が輝いた。シルエットの峰は北穂高岳東稜=6日午前1時29分から53分間露光・上部パノラマコースから

雨の間隙を縫い現れた星空

山岳紅葉の鮮やかさが全国的に知られる北アルプス穂高連峰・涸沢カール(圏谷、2300メートル)。コロナ禍3年目のこの秋も、感染防止策を講じる山小屋は厳しい営業が続く。紅葉がピークを迎えた4~6日、涸沢ヒュッテに滞在し、前線通過の影響による強い風雨の下、晴天時とは違った美しさと厳しさを見せる「涸沢紅葉劇場」をカメラに収めた。
4日午前9時50分、本谷橋から急登のSガレまで、紅葉の涸沢を目指す登山者の渋滞が断続的に続く。
11時45分、涸沢ヒュッテの展望テラスからカール全体を見渡すと、目に飛び込んできたのはダケカンバの黄葉。“火炎の舞”を演じる主役のウラジロナナカマドは、葉の色づきがいま一つ精彩を欠くが、赤い実は例年になくよく付き、色も鮮やかだ。
今秋の色づきについて、涸沢ヒュッテの小林剛社長(59)は「梅雨のような長雨や、9月中旬に最低気温が2桁の高温が続いたなど温暖化の影響だろうか」と首をかしげる。
紅葉は気温が8度以下になると始まるとされ、そのメカニズムは、最低気温と日照時間が大きく影響する。葉を赤く染める色素はアントシアニン、黄はカロチノイド。特に最低気温が高いと、真っ赤に色づくはずのウラジロナナカマドの葉が、だいだい色や黄ばんだ色になってしまう。
気象条件に大きく左右される紅葉だが、それでも雄大なカールを染め上げる風景は登山者を魅了し、その心を癒やしてくれる。
午後5時、流れが速い雨雲に穂高の稜線(りょうせん)が見え隠れし、波状に通り過ぎる強風が耳元で鳴る。「涸沢の風を撮ろう」と撮影ポイントに急ぐと、屹立(きつりつ)する峰々の前で、ウラジロナナカマドの彩りが激しく揺れる。カメラのファインダーに、涸沢の秋の“静と動”が浮かび上がった。

氷河の大地・涸沢の魅力に、紅葉と満天の星空の共演がある。滞在最終日の6日午前0時25分、撮影を諦めきれず、眠れないまま小屋の外に出た。上空は真っ暗だが、北東の空低く雲間に一つ、ぎょしゃ座の一等星カペラがキラリ。その輝きにスイッチが入り、全身が「星空撮影モード」に切り替わった。
1時5分、防寒対策をし、上部パノラマコースの撮影ポイントに急行。気温は3・8度。北と東の空が、まるでファスナーが開いたように星空に変わった。北極星が見える。頭上に天の川とカシオペヤも。だが、穂高連峰の稜線は雲に覆われたままだ。
同29分、カメラとレンズに水滴防止のヒーターを巻き撮影開始。53分後、空はファスナーを閉じるように再び雲に覆われ、奇跡的な撮影を終えた。悪天候の間隙(かんげき)を縫い、暗闇でカメラを構える自分を「星空スナイパーだよ」と笑った。
8時30分、パノラマコースの岩場で、小さなオコジョに出合った。見つけたのは、東京都から訪れた高橋里影さん。人をあまり恐れず、岩の上や隙間から顔を出す。かわいいしぐさに目がくぎ付けになり、心がほっこりする時間が流れた。
【マスク着用お願い】コロナ禍3シーズン目の涸沢ヒュッテは「マスク着用のお願い」の張り紙があちこちに。今秋は、会話が生じる外売店に、マスクなしで来る登山者が目立つ。小屋は宿泊人数を定員の半分以下の150人に制限し、検温や消毒を徹底している。小林社長は「できる限りの感染拡大防止策をし、ウィズコロナで対応していくしかない」と話した。
(丸山祥司)