[創商見聞] No.76山崎 信市 (長野オート販売)

 「創商見聞 クロスロード」の第76弾で話を聞くのは、松本市村井町北1で新車・中古車の販売、メンテナンスサービスなどを行う「長野オート販売」社長の山崎信市さん。創業から32年にわたる事業展開や今後の継承方針について話してもらった。

大きな危機を乗り越え継承へ

【やまざき・しんいち】73歳。旧戸隠村(現長野市)出身。 日本大学経済学部経済学科卒。1990年5月、「長野オート」創業、代表取締役就任。

「長野オート販売」

      松本市村井町北1丁目2−18  ☎0263-57-7100           午前9時から午後6時 定休日 第2日曜日

―目標は役員か経営者か
 高校卒業後に車両販売の松本日産に就職しました。営業成績が良かったので、当時の経営者や上司に大変かわいがっていただきました。
 好景気な時代背景もあったのか、全額会社負担で、通信教育で大学の単位も取得させてもらいました。
 当時の社長から20代前半に「この会社で役員を目指すか、独立して経営者を目指すか。どちらかを目標にしろ」と教えられた言葉が心に響き、頭の中にずっと残りました。 
 35歳の時に独立の思いを上司に相談しました。後任を育てることなど、引き継ぐための課題を示され、5年かけて準備しました。1990年、40歳で、現在の場所に会社を創業しました。
 景気の良い時代でしたので、業績は順調でした。前社での顧客も引き継げ、今もお付き合いいただくお客さまや、経営者が代替わりしても取引していただける法人もあり、とてもありがたいです。
 2000年には修理などを行う認証工場も設立し、サービス部門も充実させました。
―クライシス(危機)
 08年11月、突然取引先が倒産。売掛金が回収できず、4000万円の不良債権を抱えました。
 4000万円を全額自力で解消していくためには、前後の月の運転資金も考えて、手元には倍額の8000万円が必要です。これは当時の年間運転資金の3分の1に当たるほどの額でしたから、いきなり連鎖倒産の危機に直面しました。
 倒産関連の対応窓口がある松本商工会議所に相談し、弁護士らを紹介してもらいました。また税理士事務所からもアドバイスを受け、自分でも必至で債権処理方法を学びました。
 でも、学んだこと以上に、事業再生は行動がとても大変でした。実際に会社を立て直すためには、家族や多くの取引先に助けられました。
 翌年度の決算は不良債権を一括計上したため大幅赤字。立て直しに向け、長女と長男に「こんな決算書の会社になってしまったけれど、仕事を手伝ってもらえないか」と話し、入社へ。長女は他業界でしたが、助けに入ってくれました。
 会社の存続に向け、取引先には支払いの分割を依頼し、株主とは増資や融資を相談、銀行とは追加融資を協議。役員報酬は減額、社員給与も減額、社内経費は徹底削減など、ありとあらゆる手を打ちました。
 苦悩苦労の連続で眠れない日々。「体が持たないかも」という懸念もありましたが、7年かけ、経営を安定させることができました。
 給料が減ったのに一緒に働いて、危機を乗り越えてくれた社員やその家族、そして自分の家族に、何度「ありがとう」と思ったかしれません。常日頃の経営姿勢や仕入れ先との関係の大切さが改めて身にしみました。

次世代を担う長女の山崎洋子さん(右)と
長男の山崎貴博さん


―変わる中古車販売事情
 車の販売環境は、昭和から平成、令和にかけて大きく変化しています。電気自動車の登場などは代表的な事例ですが、このコロナ禍で中古車事情も大きく変わっています。
 世界的な半導体不足、流通の滞りなどを背景に、「新車の納入まで10カ月待ち」状態などが恒常化。一方で「すぐに乗れる」中古車の需要は上昇。オークションでは新車以上の価格が付く例も出ています。 
 現在の中古車販売は、顧客ニーズの多様な時代となり、在庫と希望が一致することが少なくなっています。以前は、県外のオークション会場に車を探しに行くには限界がありました。しかし、現在は全国のオークション会場をネット共有し、何百万台のストックの中から希望車種を検索し、取引できます。車の査定も第三者機関が厳密に行っています。
 したがって遠方にある商品(中古車)でも、実物を自分の目で確認しなくても、安心して購入者に提供できるようになっています。
 会社は1999年から松本商工会議所のインターネットサービスを利用し、ドメインやメールアドレスなどを取得。ホームページも構築しています。20年以上前からネット環境を利用してきたことは、現在も大きなアドバンテージです。 
―ネットクライシス
 一方で、ネットを利用しているがための危機にも見舞われました。2020年、わが社が利用するネット環境にウイルスが侵入し、1カ月分の仕入れ・売り上げデータ、社内作成データ等が崩壊されました。
 運用は商工会議所以外の業者で、クラウド運用ではなかったので、バックアップもとれておらず大変困りました。現在は松本商工会議所に相談し、新しいクラウドバックアップシステムを契約しました。
―今後の事業展開は
 新車関連は、法人を中心にしたリースに力を入れます。定期的な収入を確保したうえに、リース期間が経過した車は、自社でメンテナンスをした良質で格安な中古車として、市場に供給できます。
 中古車関連では、今以上に購入者の安心感が高まるように、正確な情報に基づく良質な中古車を提供します。
 また現在「タイヤ預かりサービス」部門が好調です。冬タイヤが必要な信州ならではの仕事で、自社の倉庫に現在およそ250件、900本のタイヤを預かっています。個人も法人もニーズは高く、これからも拡大させたいです。
 7月からは県のSDGs推進企業として取り組んでいます。 今後の会社の発展を考えると、管理部門やスタッフの充実など、業界での生き残りをかけて、事業拡大や新規分野への参入は不可欠です。息子や娘への世代交代を進める中で、社員と一緒に検討していきたいと考えています。