医療的ケア児リモート訪問 若者に現場伝える

医ケア児と家族 幸せな社会を

生きるために医療的なケアを必要とする子ども、医療的ケア児(医ケア児)。高度医療施設の整備が進み、超未熟児や生まれつき病気を持つ子らの命を救えるケースが増えた。ただ、在宅ケアの環境や支援制度は、十分とはいえない。
状況を改善したいと、病児と家族を支援する一般社団法人「笑顔の花」(安曇野市豊科)は、在宅医ケア児の家庭を訪ね、医療や看護を志す若者らに向け、子育て現場や家族の日常をオンラインで伝える「リモート訪問」をしている。
大学の講座では学べない現実を知らせて、小児医療に関わる人材育成や、母親の心の負担軽減につなげる。笑顔の花代表の茅房栄美(かやふさえみ)さん(45)は「医ケア児の環境を多くの人に知らせ、病児の生きやすさ、若者の学びやすさにつなげたい」とする。

画面越しに聞く生の声が学びに

9月末、「笑顔の花」代表の茅房栄美さんは、安曇野市穂高北穗高の阿部香代子さん(40)と長女の日菜子さん(10)を訪ねた。日菜子さんは、骨が折れやすい骨形成不全症で、最も重度な※2型だ。生まれると医師から「数週間しか生きられないかもしれない」と言われた。水頭症、尿道結石もある。
身長70センチ、体重7.5キロ。「寝たきりで呼吸器を付け、食事はペースト状のものを1回口から入れ、胃ろうで3回。眉の動きで肯定したり、指で支持を出したり、『ママ』『鏡』といった言葉を発したりして、コミュニケーションを取っている」。香代子さんはスマートフォンに向かい、娘の状況を説明した。
画面の向こう側にいるのは、山形県の惺山(せいざん)高校3年生7人。探究の時間で、医療的ケア児と家族のことを学びたいと、リモート訪問をすることに。生徒から「医療機器がたくさんある。使い方を覚える機会はありますか」と質問が出た。香代子さんは「退院前に呼吸器の使い方や持ち運びの仕方などを病院スタッフやメーカーの人から聞いたが、覚えきれない。分からないことはその都度聞き、覚えている」と答えた。

負担や不安から「少しでも楽に」

厚生労働省によると、2005年の在宅医ケア児の推計は約1万人で、19年には約2万人と2倍に増えた。「県内には500人以上いる」と茅房さん。在宅では家族、特に母親の負担が大きく、病院で看護師がやっていたことを担うため、不安も大きい。
茅房さんは「大人のケアはできても、医ケア児に関わる人材は育っていない。リモート訪問で現場とつながることで、生の声を聞きやすく、大切な学びになる。それが今、そしてこれからを生きる医ケア児、支える家族にとって幸せになれる社会をつくることになる。法律を変える必要もあると感じている」と力を込める。
呼吸器が外れるとアラームが鳴る─。香代子さんの自宅リビングは24時間命と向き合う現場なので、ぴりぴりと張り詰めた空気を予想した。だが、香代子さんは常に日菜子さんに声をかけ、大きな声で笑う。自宅でアイシングクッキーやロースイーツの教室も開いているという。
香代子さんは「引きこもりになったり、子どもの命が自分に懸かっていると張り詰めていたりする母親もいる。リモート訪問で情報交換し、同じ境遇の人に少しでも楽になってもらえたら。楽しく生活していることを見てほしい」と話す。
「医ケア児は一人一人違う」と茅房さん。リモート訪問を通し、医ケア児やその家族の可能性が広がり、生きやすい社会になればと願う。
笑顔の花・茅房さんTEL080・4122・0817

※ローマ数字の2