日本百名山踏破は夫婦の歴史

野崎良司さん、悦子さん 塩尻市   共通の趣味で人生豊かに

夫婦で目指した日本百名山の全山登頂─。最後は今年9月、子どもや孫らと一緒に登った北アルプス・乗鞍岳主峰の剣ケ峰(3026メートル)だった。ガスに巻かれたが、山頂で横断幕を取り出し記念撮影を始めると、居合わせた登山者たちが拍手で祝福した。
写真中央で万感の思いにひたる、塩尻市旧塩尻の野崎良司(よしじ)さん(68)、悦子さん(66)夫婦。共に登山好きで若い頃から個別に登った機会も数えるが、100座の半分以上は良司さんの退職後を中心に一緒に踏破。親の介護をしながら頂を目指した時期もあった。
年齢や体力を考え無理をしない計画を立て、ゆっくりペースで山を楽しむ。夫婦での登山の醍醐味(だいごみ)は「ノンストレス」「山で味わう食事は最高!」と明るい。共通の趣味を楽しむ二人に話を聞いた。

家族らと祝賀会達成感にひたる

野崎良司さん、悦子さん夫婦が、日本百名山全山登頂を成し遂げたのは9月17日、乗鞍岳だった。雨が降り出しそうな天候の中、横断幕を広げ記念撮影をしていると、周囲の登山者がどよめき、「おめでとう」の声も聞こえた。子どもからサプライズで贈られた達成を祝うタオルにも「うれしかった」と良司さん。
連休中の山頂は順番待ちの長い列ができていた。感動的なフィナーレかと思いきや、悦子さんは「早くしなきゃとバタバタしちゃって」と苦笑い。下山後は乗鞍高原の宿で家族らと祝賀会。ほっとして、じっくりと達成感にひたった。

二人が職場の山岳部の仲間や友人らと山に登り始めたのは、それぞれ20代の頃。百名山のことは意識していなかった。2006年、銀婚式の記念に夫婦で南アルプス・北岳(3193メートル)に登山。その頃から何となく百名山踏破を目標に掲げ、二人で登ることが増えた。
互いに仕事を持ち、親の介護も重なった。別々に登ったり、多忙でほとんど登山できない年もあったり。良司さんが退職した16年以降は、遠方の北海道や九州の山々に挑戦する時間ができ、年間10座ほどのペースで頂を踏んだ。
荷物が重くなるテント泊の場合は、登山地図にあるコースタイムの1・3倍で良司さんが計画を立てる。「ペースは亀のようにうんとゆっくり。みんなに追い越されるけれど、長い距離だから体力温存が重要」と悦子さん。無理のない登山計画が安全登山を支えた。旭岳(2291メートル、北海道・大雪山系主峰)では7合目まで登るも、猛烈な風雨で登頂を断念。翌年に再挑戦した。「すぐそこに頂上が見えても、(安全のため)引き返す勇気も必要だった」と良司さん。
頂の数だけ思い出がある。悦子さんは印象的だった山に水晶岳(黒岳、2986メートル)を選び「景色がなんとも良く、北アルプスの人気の理由が分かった」。大雪山系のトムラウシ山(2141メートル)の紅葉が忘れられないという良司さんは「県内でもいい紅葉を見たが、今まで見た中で一番だった」。
苦しい体験もある。新潟・群馬県境の平(ひら)ケ岳(2141メートル)は、山小屋がなく山中でのテント泊もできないロングコース。飲み水が尽きたという若い登山者に手持ちの水を分けた。自分たちも下山途中で水不足に陥り、渇きのつらさを味わったが、「人助けになったのだから」。以降は備えを見直した。

のれんにバッジ思い出深い宝物

かつて悦子さんが買い求めた百名山が記されたのれん。各山の名前の上に貼られたシールに、登頂年月が記入されている。記念に購入したバッジも付けられ、にぎやかに、そして重くなったのれんは夫婦の宝物だ。
「しゃかりきにならず、体力が続く限り行きたい山を登りたい」と話す二人。再訪したい山もある。共通の趣味で人生を豊かに─。一つの目標達成が夫婦史に鮮やかに刻まれた。