【記者兼農家のUターンto農】#77 生薬栽培

もうけ少ないが収穫楽しむ

「薬草の収穫が始まりました」。カワラヨモギの栽培をしている松澤孝市君(49)から連絡をもらって、取材に出かけた。
カワラヨモギは枝に付いた粒が肝心。これに肝臓の働きをよくする効果があるという。
粒を枝から取るのかと思っていたら、松澤君の作業は、枝を適当な長さに切って、一定量に束ねるまで。束を業者が引き取り、枝から粒を取って漢方薬会社に卸すという。
松澤君は、剪定(せんてい)ばさみで手際よく枝を切っていく。「今年の出来は悪くないね」。それぞれの枝には粒がびっしりと付いていた。
時々、「一緒にやりたい」と共同事業の誘いを受けるという。だが、松澤君は断っている。「草を育てているようなもんだから。普通の農業とは概念が違う」
自分自身が栽培5年ほどで、試行錯誤をしているさなか。もうけは少ないが、工夫にひとり集中して、楽しみたいふうでもある。今年は、収穫後の株を移植して、来年も栽培できるか試すという。
この時季、他にも珍しい生薬を収穫している人がいた。
丸山哲司さん(85)は松本市今井でツルニンジンを作っている。ビタミンが豊富で、朝鮮半島では古くから健康にいいとされてきた食材だ。20年ほど前、「体に効くよ」と友達に誘われ、自生しているものを取ってきた。
山林に育つものを畑で作るのは難しかった。種から育てようとしたが、発芽させるのもままならなかった。苗に育っても収穫まで3、4年かかった。
リンゴ畑を削って作り始めたのは、商売っ気もあった。だが、「全然引き合いがなくて貧乏してますよ」。そう言いながら、口調はどこか楽しそうだ。
取れたものは焼酎漬けにして飲んだり、粉末にして料理に使ったり。「健康診断は問題なし。自分としてはよかったよ」。農具を扱う動きはよどみない。
収穫の秋、作物もいろいろ、喜びもいろいろだ。