【記者兼農家のUターンto農】#79 そば

積み上げた努力信州産の強み

秋そばの季節、そばも高くなっている。そばの国内自給率は2割。そば店は、国際的な食料価格の高騰や円安の影響を受ける。
飲食チェーンの王滝(松本市)は、展開するそば店「小木曽製粉所」のメニューを今月値上げした。「ざるそば」は550円から590円になった。
「原材料の高騰が深刻」という。2014年の初出店以来、そばは初めての値上げだ。
生産者の話を聞きたいと、松本市中山地区の「縄文の丘中山そば振興会」を訪ねた。耕作放棄地を引き受けた32ヘクタールで夏、秋の二期作をしているほか、麦の裏作で20ヘクタールのそば栽培に取り組んでいる。
理事長の百瀬文仁さん(68)によると、今年の出来は平年より少し良くなかった。ただ、悪かった去年からはずいぶん持ち直したという。天候の影響を受けやすい作物だと知った。
さて、販売のことだ。単価は上がったのだろうか?「いや、うちはほとんど『霧しな』に契約栽培で出しているので」。木曽町のそば製造販売会社に、決まった価格で卸しているそうだ。
価格は、農協に卸すよりもだいぶいいという。品質を評価されてのことだ。
当初は、売り先に苦労した。そば振興会の立ち上げから関わった小林弘也さん(76)は、20年ほど前を振り返って言う。「粉を持って売り込みに歩いた。でも、栽培を始めたばかりで、相手にされなくて。買いたたかれたね」
風向きが変わったのが10年ほど前。さまざまな食品で産地偽装問題が起こったことを背景に、「信州産そば」として見直された。
田畑を作れなくなった農家から「借りてくれ」と頼まれることも多くなった。今は、初めの40倍ほどの面積を10人ほどで栽培している。「中山の一大産業になった」と小林さんは感慨深そうだ。
「『信州産』の要望に生産が足りないくらい」と百瀬さん。地場でこつこつ積み上げた努力が、国際情勢とは無縁の強みを発揮している。