松本市へ移住した田中さん 新天地でのシニアライフ

3年前に千葉県から松本市へ移住した田中佐彦(すけひこ)さん(70)は、アマチュア講談師として地域の催しで講談を披露したり、ボランティアガイドとして観光客を案内したりするなど、新天地で精力的に活動している。昨年から俳句の会にも入会するなど、松本でのシニアライフを満喫している。

うつの改善に講談師に入門

田中さんが講談に興味を持ったのは、東京での会社員時代。うつ病にかかり口数が減り、滑舌が悪くなった症状の改善につながればと55歳の時、女流講談師・神田すみれさんの講談教室に入門。大きな声を出して稽古をするうち、1人で何人もを演じ分け、リズムよく物語を進める話芸の奥深さに引き込まれた。
定年退職後63歳の時、師匠から「すみれ亭香方(かなた)」の芸名を名乗る許しを得て、妻の香代子さんがマネジャーとなり2人で「出前講談がんもどき」を結成。高齢者施設などで慰問ボランティアを始めた。2019年に移住した松本でも出前講談を2カ所で行ったが新型コロナウイルスが流行してからは中止に。今年は、地元の公民館や行きつけのそば店で講談を披露する機会を得た。
大勢の観客を前にマイクを使わず地声で語るには、日々の稽古が欠かせない。「腹式呼吸で腹から声を出すのは、気持ちもすっきりする」のも講談の効果。人情話が好みの田中さんのおはこは「徂徠(そらい)豆腐」。「講談の面白さを知ってもらい、仲間を募り、一緒に稽古する機会が持てたら」と考えている。

ガイドや俳句 精力的に活動

「松本まちなか観光ボランティアガイド」に応募したのは、移住して間もなく、松本をよく知りたいと思ったからだ。研修や独学で歴史などを一から学び、松本城や縄手、中町通りなどを案内している。
松本城の月見やぐらの逸話や、映画のロケ地になったことなどさまざまなエピソードを交えつつ、一方的にならないよう、間を取り客の興味を引き出すことも大事にしている。ガイドの前日には、相手の年齢も考慮し、時間配分や話す内容など筋立てを考えて本番に臨む。
「ガイドも講談も、役者であり演出家でもある私の一人芸で、お客さんをいかに楽しませるか。共通点がある」とし、「ガイドで学んだお城の歴史や民話を題材に、講談の新作を作れたら」と思い描く。

俳句は、移住後に挑戦したいと思っていたことの一つ。MGプレス「MG文芸」に載った俳句選者の降旗牛朗さんの句に感銘を受け、降旗さんが副主宰の「りんどう俳句会」に夫婦で入会した。東部公民館で開かれた降旗さんの俳句講座も受講。講座が発展し、先月発足したばかりのサークルの世話役も務めている。
「十七音の中に季語を入れ、自分の感情をどう表現するか、頭の体操になる」と田中さん。ウオーキング中にひねることが多いという。講談、ガイドと普段から声を出すこともあり「俳句も目で文字を追うより、声に出すと文章のリズムを味わえるのでお勧め」と話す。
加えて「年300食は食べる」ほどのそば好き。真冬だろうと「ざる」が好み。スーパーで買った生そばを食べ比べたり、各地のそば店を訪ねたりして飽きることはない。おいしいそばを食べられる幸せは「松本に来て良かった」ことの一つだ。
誰一人知り合いのいなかった松本で、町会や趣味を通じて仲間ができた。「これから70代、80代と、何事にも興味を持ってチャレンジしていきたい」と新たな出会いにわくわくしている。