農園のイチゴを地元の人に「いちごのお店」

イチゴを通して広がる可能性

赤くてかわいくて、おいしい─。イチゴにそんなイメージを持つ人も多いのでは。柳澤歩さん(35、松本市浅間温泉)も魅力に取りつかれた一人だ。栽培するだけでなく、農園のイチゴを地元の人に食べてほしいと11月、「いちごのお店Antares(アンタレス)」(同市大手5)をオープンした。
「生きるスキルを身に付けたい」と、結婚を機に新潟県から松本に移住し、就農した。離婚後も顧客のため、子どものため、そして地元を盛り上げたいと、松本に残り、イチゴ栽培を続ける。
ほとんどを県外の飲食店などに出荷する。「Antares」は、地元で柳澤さんのイチゴが味わえる数少ない場所だ。農園、店で働く人は全て女性といい、女性がストレスなく働ける場をつくろうと奮闘する。

震災を経て就農 松本で縁つなぐ

「いちごのお店Antares」のドアを開けると、イチゴの香りが漂い、幸せな気分になる。赤と白を基調にした店内で、メニューは苺(いちご)のレアチーズケーキ(480円)、苺パフェ(1250円)─と、イチゴづくしだ。イチゴは、オーナーの柳澤歩さんが経営する「三才山農園なかや」産だ。取れたてで、味が濃く、おいしい。
柳澤さんは、新潟県出身。東日本大震災で、生きること、食べることに危機感を抱き、農業に興味を持った。結婚、妊娠で、2015年、夫の実家へ戻り就農した。虫が大嫌いだが、農業とは切っても切れないのが虫だ。「キャーキャー言っていたら身が持たない」と克服、というより諦めた。
20年に離婚したが、仕事を続けたいと事業を譲渡してもらい経営を続ける。「三才山農園なかやのイチゴじゃなきゃ駄目」という顧客が多く、せっかくつながった縁を切るのに抵抗があった。松本が好きな子どもの地元をなくしたくない、さらに松本を盛り上げたい気持ちもあった。「イチゴに縁があり、離れられない。不思議な感覚」と柳澤さん。イチゴとは一心同体のようで、髪も一部赤くし、友人、知人から「いちごちゃん」と呼ばれる。
農園の敷地は30アールで、夏秋イチゴ、冬イチゴ合わせて年間約1万1000株を栽培する。出荷は100%自社販路で、県外のケーキ店などに直接卸す。人気で栽培が間に合わず、断るケースもあるという。
地元で、柳澤さんのイチゴを食べられる店が少なく、買える店もほとんどない。親友がチーズケーキの店を閉店することもあり、常に提供する場があればと、店を開くことにした。「『地元でイチゴを買いたい』という要望に応える一歩になれば」とする。

女性の雇用進め能力生かす場に

親戚でパティシエの奥牧双葉さん(41、松本市内田)がメニューの企画開発に携わる。食で信州の活性化を目指すプロジェクト「信(しん)州嵐(しゅらん)」のメンバーで、仲間の飲食店、菓子店のオーナーらも心強い味方だ。
女性が働きやすい場をつくりたいと、店、農園とも女性の雇用を進める。店に手作りイチゴグッズを置くなど、女性の特技や資格を生かせる場にもしたいという。
生産者が消費者と直接触れ合う機会は少ない。「店、農園、2人の男の子の子育てとめっちゃ大変だけど、楽しい。目の前で『おいしい』と食べる姿を見ると、にやにやしちゃう」と柳澤さん。
新しいメニューを開発したり、信州嵐の料理人とコラボしたり。人とのつながりを大切に、イチゴを通して、さまざまな可能性を模索していく。
午前11時~午後4時。日曜定休。TEL0263・75・7251