曽祖父の家守りゲストハウスに

田舎暮らし体験できる宿に

こたつにあたってミカンを食べたり、だんらんしたり…。そんな家族の風景が見えてきそうだ。
富山県出身の坂下佳奈さん(31、木曽町福島)がこの秋、ゲストハウス「matarihouse」を町内にオープンした。祖母が生まれ、曽祖父が住んでいた家だが、20年ほど空き家に。4年前、売りに出されることを知り、「自分が受け継ぎたい」と移住した。
地域おこし協力隊の活動を経てゲストハウスの開業を決意。古民家の雰囲気を残しつつ地域の木材を活用した空間へと改修し、11月にオープンした。
自身のルーツでもある家を守り、これまでの4年間で出会った木曽の人や暮らし、文化などを自分なりに発信できたら─。歩み始めた坂下さんを訪ねた。

古民家を改修漂う懐かしさ

木曽町福島の街中から徒歩約15分。ゲストハウス「matarihouse」は、建物、家具、備品など昭和の懐かしい雰囲気が漂う。オーナーで住人の坂下佳奈さんは「おじいちゃんが残してくれたもので生活している。来てくれた人がそれを面白がってくれるのが楽しい」と話す。
古民家を改修し、1階を共有スペースに、2階を宿泊用にした。もともと家に置いてあった材木を加工してこたつにリメークし、伝統的構造物の屋根材に使われる手割りの薄板「へぎ板」の端材を壁に貼るなど、木材の使い方を工夫した。
共有スペースには古い箱を並べて本棚にし、坂下さんがこれまで集めたさまざまなジャンルの本を自由に読めるように。屋号の「マタリハウス」は、「まったりくつろぐ」「まったりとした深みのある時間を」といった意味を込めた。

大阪から移住交流つなげて

神戸の大学を経て大阪の印刷会社に就職し、営業を担当した。仕事は充実し、飲食店など個性豊かな店が集まる大阪が楽しかったという。一方、時間をただ消費しているのでは─という思いも。そんな時、木曽町福島で曽祖父が住んでいた家が売りに出される話を聞いた。
幼い頃から家族で遊びに来たり、大学時代には友人を連れて滞在したりした、思い出の詰まった家。「大阪はいつでも住めるけれど木曽は今、行くしかない。新しい場所で挑戦してみよう」と決意。2018年に移住し、家に住み始めた。
地域おこし協力隊員として3年間活動した。町営のコワーキングスペース「ふらっと木曽」の運営などに携わり現在も関わる。住民との交流を通し、人々の魅力と山の恵みを生かす暮らし方などに感銘を受けた。
移住当初から頭の片隅に描いていたゲストハウス運営。「4年たった今だからこそ、今までの経験を誰かにつなぎ、新しい出会いを広げていけるのでは」と開業を決意。知人の大工らの手を借り、改修した。
週末限定で営業。古民家を改装したゲストハウスは町内で珍しく、これまで国内外の観光客を受け入れた。木曽伝統の防寒具「ねこ」づくり体験と郷土食を味わう宿泊会も開催。今後は、木曽の暮らし体験と組み合わせた宿泊プランなど、地域活性化も視野に入れた運営を目指す。
「自分が木曽で出合ったことを、ゲストと共有できたら。田舎暮らしを体験してもらえる宿にしていきたい」と坂下さん。自身の思い出の家を舞台に、県内外から新たな思い出づくりに訪れる人を迎えていく。