ハンターに聞く 野ウサギはどこへ?

山に囲まれ、昔から野生動物を食べる文化がある信州は、ジビエ(野生鳥獣肉)の本場だ。特に近年、数が増えて栄養価も注目されるシカをはじめ、イノシシやクマを提供する店はあるが、ウサギは聞かない。「以前は捕って食べた」という話はあるが、今はどうなっているのか―。猟友会員や関係機関に聞いた。

松本市の百瀬壽英さん(82、里山辺)は、松塩筑猟友会里山辺支部の顧問。支部最長老で、今も毎週猟に出る。百瀬さんや支部長の布野兼一(かねいち)さん(73、同)によると、一帯の里山には、以前は今のシカと同じくらい野ウサギが多くいて、「山鳥やキジは捕れなくても、ウサギはたいてい捕れた」(百瀬さん)。
山の斜面を通るウサギを下から缶をたたいて追い立て、上で待ち伏せして銃で仕留める。ウサギが飛び出すと、犬もほえて追うなど猟に一役買った。「一人でも仕留めたよ」と布野さん。わな猟免許を持つ人は、細い針金で輪を作り、ウサギが通ると重みで輪が締まる「くくりわな」などで捕ったという。
同支部では獲物を解体してうさぎ汁にし、忘年会や新年会などで食べた。「肉は軟らかく、さっぱりしていて独特な味わい。おいしいよ」(百瀬さん)

それほど捕れたウサギだが、1985(昭和60)年ごろから少なくなり、90年を過ぎるとたまに見かける程度になり、近年はほとんど見ないという。
県の統計=グラフ=だと、猟や有害鳥獣の駆除による県内の野ウサギの捕獲数は、70年代半ばに7万匹を超えていたが、その後はほぼ右肩下がりに。2021年度はわずか17匹と、半世紀近くの間に激減した。
県鳥獣対策室によると、野ウサギによる苗木の食害が深刻だった75年、県は対策としてウサギを補食するキツネを禁猟(85年まで)にし、76年には野生のキツネ32匹を岡山県から連れてきて、県内全域に放した。
同対策室は「キツネの効果もあっただろうが、野ウサギに感染症がはやった時期もあり、複合的な理由で減ったのでは」と見る。

県内の21年度のシカの捕獲数は3万834頭。長年、里山の動物たちを見てきた百瀬さんは、ウサギが減るのに反比例して、シカやキツネ、タヌキが増えたと言う。「まれに野ウサギを見かけても、今は捕らない。里山にはいろいろな動物がいてほしいし、増えれば昔のように猟もできるしね」と百瀬さん。
「うさぎ追いしかの山…」で始まる唱歌「故郷(ふるさと)」が発表されたのが1914(大正3)年。その後60年間ほど維持されていた里山のウサギの生息環境は、その後のおよそ50年で変化したと考えられる。ハンターや子どもたちが里山でウサギを追う日は、再び訪れるのだろうか―。

【ニホンノウサギ】
本州と四国、九州に広く生息し、体長は50センチほど。日本の固有種で、世界に生息するノウサギと比べると小柄で、足や尾、耳は短い。積雪がある地域では、冬は耳先の黒い毛を残して、体毛が白くなる。