今日のウサギ当番─小学校のウサギ事情

ウサギと触れ合った思い出といえば…。こう聞かれて「小学校」と答える人は多いだろう。当番でウサギたちを世話したものだ。今どきはどうなんだろう?ウサギを巡る出来事が絵本になった小学校を訪ね、アンケートで中信地区全体の状況を探った。

絵本になったウサギ
片丘小「ミミちゃん」 12年前のうさぎ年に…

今から12年前のうさぎ年のこと。塩尻市片丘小学校のウサギが重い病気にかかった。治すにはお金がいる。当番で世話をしていた2年生の子どもたちは考えた。全校に寄付を呼びかけよう―。活動は絵本となり、物語は今に引き継がれている。

命救うため懸命に活動した児童の姿

「すごい静かで、おとなしい子だった」と尾崎匠(たくみ)さん(19、浜松市)は当時を振り返る。「ミミちゃん」というウサギが病気になったのは1学期半ば。おなかに腫瘤(しゅりゅう)ができた。みんなで話し合い、「ミミちゃんぼきん」が始まった。
教室を巡って説明し、募金箱を手に昇降口に立った。3万7525円が集まった。「これだけあれば助けられると思った」と尾崎さん。しかし、その夏にミミちゃんは死んだ。「悲しさとショックで泣いたと思う」
それから12年、ふとしたときにミミちゃんを思い出す。例えば、治療のときの様子。「痛そうだった。頑張って生きようとするのが伝わってきた」。その後、初めて生き物の死を実感したが、印象に残るのはミミちゃんの諦めない姿だという。

当時の出来事形に残したい

当時担任だった山下同(ひとし)教諭(60、現山形小)には、子どもたちの行動と展開が「驚きと優しさの連続だった」。気にかける人が地域にもいることを知り、「形に残したいと思った」。死から2年後、「うさぎのミミちゃん」という絵本になった。山下さんがほぼ事実を文にし、親交のあった洋画家の野中秀司さん(63、松本市和田)に挿絵を頼んだ。
原画が今、同校の廊下に飾られている。だからなのか、今の児童はこの話を知っている。「ミミちゃんのストーリー、感動するよ」。2年生の池田陸玖(りく)君がウサギ小屋で教えてくれた。取材した日の当番だった。
当番は4人で小屋を掃除し、4匹の餌を替える。「パパもやったんだって」「うちの父ちゃんも」。学校によると時々、保護者に「今は何匹?」と尋ねられる。
作業を終えた小澤海斗君が小屋をのぞき込んで言った。「めっちゃ、かわいい。もう、ニンジン食ってる」。片丘小では、今日も子どもたちとウサギの交流が続いている。

命に触れ育つ責任感
旭町小6年1組 事前調査から児童主体

松本市旭町小学校6年1組の30人は、昨年7月からウサギ1匹を校舎南側の小屋で飼っている。総合学習で命の大切さを学びたい―と、動物グループのウサギ班7人が中心となり、児童たちで決めたことだ。
他の飼育候補が挙がる中、飼うメリットとデメリットを調べ、アレルギーの人がいないなどの理由からウサギに。クラスで飼えるのは卒業まで。保護者へのアンケートで、最期まで責任を持てる家庭があることを確認して最終決定した。インターネットで里親募集していた塩尻市の人から、生後約2カ月のウサギを譲り受けた。
名前は「ナッツ」。みんなでルールを決め、休日も含め毎日、餌やりや小屋掃除、日誌の記入などを当番で行っている。担任の秦文子教諭は「ふんの掃除も率先してやり、自分たちで育てるという責任感が伝わってきます」と目を細める。
餌代などの費用は、児童が育てた蚕の繭玉でキーホルダーや置物などを作り、校内で販売して賄った。全校児童に認知してほしいと、ウサギに関するクイズを校内放送で流し、他学年も触れ合える日を設けた。
名前を呼ぶと寄ってきたり、好物のタンポポを見せると喜んで飛び跳ねたり。怒るしぐさをすることも。児童はこうしたナッツとのコミュニケーションを楽しんでいる。
ウサギ班リーダーの渡邉ひなたさん(12)は「ナッツが日に日に懐いてくれて、とてもかわいい。成長が楽しみ」と笑顔。卒業までにナッツの動画を作って、全校児童に見てもらう予定だ。

ウサギ飼ってる?飼ってない?他の動物は?
中信地区小学校に聞きました

MGプレスは昨秋、中信地区の小学校を対象にウサギ飼育についてアンケートを行い、公立73校、国立1校、私立2校の計76校全てから回答を得た。
ウサギを飼っているかという質問に「はい」と答えたのは24校(32%)。郡部が市部より少ない傾向で、木曽郡はゼロだった。
県教委が全県の公立小学校354校での飼育動物をまとめたところ、ウサギは76校(21%)で、コイの83校(23%)に次いで2番目に多かった。カメの33校(9%)、ハムスター・モルモットの19校(5%)が続いた。

Q.飼育する学校でのエピソードなどは?
A.2年生(1~2年生も含む)が担当(18校)/担当の2年生がウサギのために遊び場を作ったり温かな思いで世話をしたり。思った以上によい影響が見られる(今井)/4年生がみんなに生き物に触れ合って癒やされてほしいと総合学習で飼育(塩尻西)/特別支援教室で飼育。癒やされる子が多く、登校後すぐにウサギに会いに行く子や明るく話ができるようになった子も(三郷)/生き物委員会が飼育する小屋が校内中央にあり、全校児童が日々気にかけてくれる(菅野)/けがや病気などの時に獣医さんがボランティアで診てくれてありがたい(大町西)

Q.飼育しない理由は?
A.小屋が雪の重みでつぶれてしまう(美麻)/鳥インフルエンザが流行して動物を飼育しなくなった(明南、安曇)/大豆の栽培に移行した(梓川)/動物アレルギーの児童がいたため(複数校)/昨年~約10年前まで飼育していたが、ウサギの死をきっかけにやめた(複数校)

Q.ウサギ以外に飼育している生き物は?
A.ウーパールーパー(美麻)/スッポン(三郷)/田川の生き物(塩尻西)/ウズラ(麻績)/ヤギ(筑摩、梓川、信大附属松本)/ヒツジ(朝日)/そのほかモルモット、ハムスター、金魚、メダカ、コイ、熱帯魚、カメ、イモリ、ヤモリ、カナヘビ、カエル、スズムシ、昆虫

かわいらしさに力強さも
県教委義務教育課・研修派遣教員 宮島新さんに聞く

アンケート結果について、県教委義務教育課の研修派遣教員、宮島新(あらた)さん(44)に聞いた。宮島さんは、県内の小学校で教壇に立った後、2021年度までは信州大大学院教育学研究科の准教授を務め、動物飼育の実践研究を行ってきた。

社会変わり飼育に難しさ

―ここ数年でやめた学校が目立つ。
動物飼育自体を巡る環境が変わっている。対外的には、鳥インフルエンザや豚熱が社会的な問題になった。学校から出たら、畜産など地域の産業に影響しかねない。
校内的には、児童の動物アレルギーへのケアが必要になった。休日、夜間の世話や教員の入れ替えといったことに対応する体制づくりも必要。飼いたいから飼うということはできなくなった。それでも県外からは、長野県はウサギをはじめとした動物飼育に積極的といわれる。
―郡部で少ない。
推測だが、環境も関わっている。周りの里山でおのずと児童が動物と関わる機会が得られるのかもしれない。
―学校で動物を飼う意義は。
命に学ぶということ。育てる過程では想定外が起こる。動物にとっての幸せを考えても正解はない。対応する様子に、子どもを見る教師の目も変わる。気が付くと、子どもも教師も育っている。
─中でもウサギが人気なのは。
かわいらしくて、子どもが安心して関わりやすい。動物飼育の入り口にしやすい。餌をカリカリ食べる様子は力強く、地面に穴を掘り込む力もあって、駆ければ容易に追い付けない。命の力強さを感じて、かわいらしさを捉え直すことは、大きな学びにつながる。