米のおいしさの答えを求めて
「むこの米」というロゴマークが目を引く名刺だった。栽培米のブランドの一つだという。つまり?「ここには婿で来ました」と松川村の茅野純和(すみかず)さん(42)。それまではほとんど農業に関わっていなかったという。
出身は松本市梓川倭。スポーツインストラクターだった26歳の時、勤め先で知り合った女性と結婚した。名字が変わり、農家になった。
米作りにこだわりはなかった。転機は、素朴な疑問だった。米は松川村の特産というが、「本当においしいの?」。答えを求めて、全国的なコンクールに出品した。
すると、入賞は逃したが、「おいしい」と評価された。「普通に作っただけなのに」。さらにおいしくしたいと意欲が湧いた。
有機肥料を入れたり、無農薬にしてみたり。6年前、初めてコンクールで入賞すると、全国の農家や業者とつながりができた。肥料に魚かすやカニ殻などが加わった。
そうして作ったコシヒカリが、昨年末に二つのコンクールで入賞した。「お米日本一コンテストinしずおか」で最高金賞、「米・食味分析鑑定コンクール国際大会in小諸」では国際総合部門の特別優秀賞。いずれも最高賞に次ぐ賞だ。
「自分で食べても本当においしい」と茅野さん。私が肥料などの工夫のたまものだと感心すると、「一番は水かな」と意外な分析が返ってきた。山の清らかな水があってこそ、栽培法の良さが発揮されるという。「山間地の、ここ鼠穴(ねずみあな)地区の土地柄のおかげです」
茅野さんは今、高齢農家から任された田んぼを含め20ヘクタールを耕し、うち2ヘクタールを減農薬や無農薬で作る。収量を増やすのと味を追求するのと、二つの農法を並行させる。昨春、常勤の作業者として松澤純一さん(42)を迎え、将来は法人化する予定だ。
無農薬の「むこの米」は、インストラクター仲間が「ストーリーが伝わりやすい」と名付けた。農業初心者が土地に溶け込んで良さを引き出す─。Uターン者にも響く物語だ。