映像ディレクター・きたむらさん 東京と行き来し信州の魅力表現

「願い。飛べ。空へ。」。このキャッチフレーズを乗せた信州まつもと空港のプロモーション映像が、先月から同空港や神戸空港、市内映画館などで流れている。
コロナ禍で会いたい人に会えない、旅ができないなど、「当たり前」がかなわない昨今。「会いたい」という普遍的な思いと空への憧れ、この地の魅力を、優しい色合いと空気感で表現した。
制作したのは、岡谷市出身で塩尻市在住の映像ディレクター、きたむらゆうじ(本名・北村有司)さん(38)。テレビCMなど映像制作の一線で活躍しながら、コロナ禍を機に信州へ。塩尻と東京とを行き来しながら、都会での大きな仕事と地方でしかできない仕事の両方をこなす。
信州で目指すものとは。

まつもと空港などTVCMも制作

塩尻市広丘吉田の自宅兼事務所。映像とデザイン「てんとてん」代表のきたむらゆうじさんと、妻で一緒に活動するゴレイコ(本名・北村令子)さん(40)が出迎えてくれた。
きたむらさんが手がけるのは、国内の有名企業のテレビCMやミュージックビデオなど、多くの人の目に触れ、時代を象徴するような作品だ。東京オリンピック招致の際の公式映像など、大プロジェクトにも関わった。
ディレクターとしてコンセプトを考え、絵コンテを描き、チームでの映像制作を指揮する。時には自身で撮影、編集も行う。2年前に塩尻に移住してからは、県内企業や自治体からの依頼も少しずつ増えてきた。
信州まつもと空港のCMもその一つ。きたむらさんが企画制作を、レイコさんがキャッチコピーやナレーション文章を担当した。コロナ禍で空の旅が全面回復とはいかない中、「飛行機に乗る人の気持ちに寄り添い、背中を押せたら」(きたむらさん)、「まつもと空港の魅力や温かさ、空気感が伝われば」(レイコさん)との願いを込めた。

2年前会社設立夫婦で試行錯誤

ファッションや音楽が好きだったきたむらさん。東京の大学に進学し、広告制作会社に就職。一から映像を学び、ディレクターとして頭角を現した。レイコさんも同じ会社で、企業やプロジェクトのデザインやブランディング(ブランドの構築)の仕事に携わる同僚だった。
9年前に結婚、互いに仕事に没頭していたが、長男を授かって生活が一変。レイコさんは東京でのワンオペ育児に「社会から断絶されたような孤独感を感じた」。仕事復帰に悩んだ末、夫の実家があり気に入った信州での仕事を手がけようと、諏訪で仕事、東京で生活する、2拠点生活を試した時期もある。
一方、きたむらさんの価値観も次第に変化。登山が趣味となり、自然が近い信州を見直し始めた。仕事への向き合い方も、「やりがいが何かと考えた時に、人に近いものづくり、喜んでくれる人が見える作品を作りたい」と変わってきた。
2年前、空き家になっていた祖父母の家に引っ越し、会社を設立。会社名「てんとてん」には「映像やデザインを通して企業や商品、人など、さまざまな点をつなぎたい」との思いを込め、その“線”を信州にも広げていきたいと活動する。
レイコさんは一昨年から、育児を外に持ち出し、街全体で子育てを担おうという新たな取り組み「ソトイク・プロジェクト」も運営する。昨夏には第2子を授かり、夫婦で子育てとクリエーティブな仕事を両立することが地域の未来にもつながる、と試行錯誤を続ける。詳細はウェブサイト(ten-ten.co.jp)