俳句とイラストでユーモラスに 91歳が描く日常

今年のえとのウサギや、月明かりを受ける常念岳、酒を酌み交わす人たち|。松本市開智2の介護付き有料老人ホーム「オーチャード開智」の廊下に、俳句に味わい深いイラストを添えた作品が飾られた。作者は入居する本多和かず臣おみさん(91)。コロナで外出や面会が制限され、感染拡大防止に気を使う日々が続く中、本多さんが描き出すのは、穏やかな日常だ。
スケッチブックのページに縁取りをしてサインペンで描き、これまでに80枚以上を仕上げた。北アルプスの山々や松本城、開智学校など4階の居室の窓から見える景色や、そこから感じられる季節の移ろい、クリスマスや年越しといった行事が、主な題材だ。
「ノートレで春夏秋冬ボケ防止」という句の脇には、机を囲み脳トレに取り組む人たちの絵。入居者や職員らしき人物をユーモラスに描いた作品は、誰がモデルかで話が盛り上がることもある。ホームの空気が和む。
絵の素養は「全くない」と本多さんは言うが、職員らは「そこがいいのかも。素朴で温かみが伝わる」。作品ができると職員が額に入れ、廊下に飾る。
ことさらに現状を嘆いたり、逆に美化したりするわけではない。そこにある日々をいとおしむような本多さんのまなざしに、見る人が癒やしや和みを見いだすのかもしれない。
同市出身の本多さんは富士電機松本工場(筑摩)に技術職で長く勤め、1991年に定年退職。その後、市内の教室で俳句を学び始めた。2015年に同ホームへ入居してからも俳句を続けた。2年ほど前、職員に「絵も添えてみたら」と勧められたのを機に、イラストにも挑戦。窓から見える春の常念岳を描いた。
今後は「コロナ感染が落ち着いたら外出して、違う題材も探したい」と意欲的だ。
職員らから「個展を開いたら」「作品集を出したら」と言われることもある。本多さんは照れながら「せっかくの人生、いろいろな経験をして楽しめればいい」とほほ笑んだ。