
「国宝松本城氷彫フェスティバル2023」(1月27~29日)のメインイベントで、全国トップレベルの選手が集い、繊細な技と美を競った「全国氷彫コンクール・チャンピオンシップ」は、12チームが28日夕から徹夜で制作した。凍える深夜から未明にかけ、気迫と熱気に満ちた作業をカメラで追った。
気迫と熱気夜を徹し制作
28日午後4時半、予定を30分早めて一斉に作業を開始。氷柱を切断したり研磨したりする電動工具やブラシの金属音が、会場の松本城公園に響く。チームは2人一組。1体は長さ1メートル10センチ、重さ100キロの氷柱を15本を使う。制限時間は12時間だ。
日付が変わった29日午前1時。氷点下7度と冷え込みが厳しくなる中、各チームの意図がリアルに浮かび上がってきた。真夜中の制作風景を見ようと、訪れる市民らの姿も目立つ。午前4時半に終了。夜明け前の天守を背景に、カラフルな照明を浴びて並ぶ力作が、幻想的に浮かび上がった。
審査の結果、最高賞の金賞は「大地に生きる」に。審査委員長で長野氷彫倶※楽部会長の野田真一さん(60、松本市)は「高さと広がりがあり、均整がとれた構図が見事。かわいらしさにあふれ、心がほっこりする。技術力と繊細な表現力が光る」と評した。
銀賞は「白亜紀の王者」。モチーフの恐竜の表情が抜群で、きっちりできている。大小2匹の立体感と躍動感が素晴らしい。後ろ脚の支えで残した部分の処理で、金賞に及ばなかった。
銅賞は「大地の歓喜」。左右に広がり躍動感にあふれるが、奥行きがなく立体感に欠けたのが惜しまれる。
特別賞は、細部にわたり技術的な表現力が光った「うみがめの親子」が選ばれた。今回、繊細な表現の作品が目立った理由について、野田さんは「制作中に雪が降ったが、気温が氷点下7度まで下がり、最高のコンディションだった」と説明した。
【氷彫への市民の思い】
29日午前6時20分。「氷彫は冬の松本の宝です」と、作品を熱心に撮影する市内の若い夫婦がいた。無料通信アプリLINE(ライン)で県外の友人に送ると言う。
8時半。「(氷彫と松本城は)やっぱり似合うなあ」とつぶやきながら、作品を撮影する市内の50代の男性。氷彫フェスを市民参加型の“冬の祭典”にしたらと提案された。近くで聞いていた元教員という女性は「感動と癒やしを与える氷彫は、松本の誇り」と一言。
9時25分。取材を終え、松本城公園の入り口付近に戻ると「お母さんのうそつき」と、幼い女の子の泣き声が…。楽しみにしていた「氷の滑り台」がないと言う。コロナ禍の対策とはいえ、謝る母親の後ろ姿が切なかった。
自作の前でプロポーズ
須澤さんと矢口さん愛誓う
29日午前4時半。制作が終了して間もなく、会場の照明が突然消えた。「皆さま会場入り口にお集まりください」。放送とともに明かりがつく。作品「ザトウクジラ!!」の前に緋毛氈(ひもうせん)が敷かれ、お立ち台も。
登場したのは、先ほどまで懸命に制作していた長野氷彫俱楽部の須澤孝道さん(40、松本市今井)と、矢口美貴さん(36、安曇野市穂高)。二人は昨年6月、友人の紹介で出会い、愛を育んできた。自作の前で矢口さんにプロポーズする須澤さん。「おめでとう!」と、全国の氷彫作家や会場スタッフ、観客から祝福の言葉が飛んだ。
サプライズは、長野氷彫俱楽部の野田会長と顧問の浅田修吉さん(65、松本市)がお膳立て。須澤さんと組んでコンクールに出場した小林義明さん(東京都)が、十字架を手に牧師役を務めた。
(丸山祥司)